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 また、筆者が以前から注視している中国のマネーサプライの伸びは、6月も停滞した。人民銀行が7月12日に発表したデータで、M2は前年同月比+8.5%になり、5月と同じ伸びにとどまった。預金準備率を段階的に引き下げるなど、当局は金融政策による景気刺激の試みを続けているのだが、金融システムには相変わらず目詰まり感があるもよう。

 金融政策による景気刺激がトランスミッションメカニズムの不全から機能しにくい中で、中国当局による景気刺激は財政政策の「一本足打法」に近くなっている。

 こうした中、バルチック海運指数(BDI、985年=100)が驚くほど堅調に推移しており、7月22日には2191(前日比+21ポイント)になった。2月につけた直近ボトムの3倍以上である。だが、これは鉱山事故の影響を乗り越えてブラジルから中国への鉄鉱石の輸出が増えていることによる輸送用船舶の需給逼迫が主因であり、中国の力強い経済成長を示唆する動きであるとは考え難い。

中国の成長率は+6%台で着地か

 中国の今年の成長率は、社会の安定を維持するという政治的な狙いから、政府が立てている目標の通りに前年比+6%台前半で「着地」することになる可能性が高い。景気が底割れしないことは、1つの安心材料ではある。一方で、世界経済を持ち上げるような力強い中国の回復は望めないということでもある。

シンガポールでもマイナス

 米中貿易戦争が長引く中で、中国の経済成長は全般に勢いを弱めており、ハイテク分野での調整も同時並行的に続いている。こうした状況下、アジアの他の国々の経済指標においても「変調」がいくつか観察されている。実質GDPの伸び率の符号が事前の予想とは異なってプラスではなくマイナスになる事例が、1~3月期の韓国に続いてシンガポールでも発生した。

 シンガポール貿易産業省が7月12日に発表した4~6月期の実質GDP速報値は、季節調整済前期比年率▲3.4%。同+0.1%の事前予想から大きく下振れた。1~3月期が同+3.8%だった反動が出たとも言える。前年同期比では4~6月期は+0.1%で、1~3月期の同+1.1%から大きく鈍化して、約10年ぶりの低成長にとどまった。

 英経済紙フィナンシャル・タイムズは上記のニュースを、「ハイテク輸出に依存している経済を米中貿易戦争が直撃」というサブ見出しを付けて報じた。ハイテク製品の輸出に依存していることから、シンガポールは貿易面の緊張には特に脆弱であり、アジアのサプライチェーンはそうした緊張によって阻害されているという。

 シンガポールのスイキャット副首相兼財務相は、通年ベースの景気後退局面入りは現時点では予想しておらず、経済には複数の強い分野があると述べた。だが、リスクがダウンサイドにあることは明らかだろう。シンガポール金融通貨庁(MAS)が10月に、シンガポールドルの名目実効レートの政策バンドを調整する金融緩和に動くのではという観測が浮上している。