移動手段をバイクに頼っている人々の多くを地下鉄に誘導できれば、渋滞は解消しやすくなる。そこで、HCMCでは地下鉄建設プロジェクトが進行中だ。日系企業も受注しており、中心街の広場にはそのことを示す大きな看板が掲げられていた。

 だが、ひどい交通渋滞はそれにより簡単に解消するのだろうか。筆者は懐疑的である。ベトナムに定着しているバイク文化を突き崩すのは容易なことではあるまい。

日系企業も参画しているホーチミンシティーの地下鉄建設プロジェクトの看板
日系企業も参画しているホーチミンシティーの地下鉄建設プロジェクトの看板

 一方、電力は少し事情が違う。現在はベトナムにおける電力の供給については相応に安定しているようだが、ミャンマーでは電力供給が不安定であることが、生産拠点候補になるための難点とみられている。ガイドブックを読むと、確かにこの国では停電が珍しくないと書いてある。筆者もヤンゴンで停電を体験しておきたいと思っていたのだが、なかなか機会が巡ってこなかった。だが滞在4日目の夜、ホテル近くのショッピングセンターにいた際に、ついにその機会がやってきた。

 照明が突然消えて、エスカレーターが止まったのである。だが、非常灯が点灯しているので、真っ暗にはならない。現地の買い物客は冷静で、特に驚いた様子もない。動きが速かったのは警備担当の男性。すぐに止まっているエスカレーターを駆け下りて下のフロアに向かった。推測だが、この機に乗じて商品を万引きして退店しようとする輩を防ぐべく、出口に向かったのだろう。数分程度で停電は復旧し、明るい店内に戻った。

 ミャンマーでは政府が7月から電気代を値上げした。この国の電力料金は東南アジアでは最低水準で、電力供給による赤字が毎年膨らんでいた。政府が資金不足のため、電力関連の設備投資が進まない。帰国してから読んだ朝日新聞 7月26日朝刊掲載の記事「ミャンマー、電力不足深刻 最大都市・ヤンゴンでは計画停電」によると、今回の値上げは家庭用で最大3倍、業務用で最大1.8倍という大幅なものである。

不安定なインフラで「棚からぼたもち」は難しい

 国民の間では「停電よりは値上げ」という声が多いものの、賛成の人ばかりではないという。だが、「電力への不安が外国企業の進出を鈍らせている」(ヤンゴンの日系企業幹部)。そうしたディスアドバンテージを早急に解消しなければ、米中貿易戦争が続いている中でミャンマーが「漁夫の利」的に経済メリットを得るのは、なかなか難しいだろう。

 では一方のベトナムの電力が安泰かと言えば、そうではないらしい。ロイター通信が7月31日に報じたところによると、ベトナム産業貿易省の見通しでは、このままでは電力の需要増加に新しい発電所の建設が追い付かなくなり、2021年には深刻な電力不足に陥るという。

 ただでさえ渋滞が社会問題になっている東南アジア。さらに電力供給も不安定とあっては、どうやら米中の貿易戦争で「棚からぼたもち」というような、安易な「おいしい」話にはならないようである。

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