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 「アベノミクス」の下で、日銀は長期国債の大規模な買い入れを続けており、資金循環統計によると、日銀の国債保有比率は19年3月末時点で43.2%に達している。財政規律の緩みに対して警告を発するという、債券市場が本来有しているはずの機能が消えてしまっている。

日本のマクロ政策は「手本」?

 安倍晋三首相が7月3日の党首討論会で根拠を示さずに、10%を超える消費税率は「今後10年間くらい必要ない」と発言しても、市場は無反応。黒田東彦日銀総裁は6月20日の記者会見で、「仮に政府が国債を増発して、歳出を増やすということをやったとした場合にも、イールドカーブコントロールのもとで金利が上がらないようにしていますので、インプリシット(暗黙的)にそういう事態には協調的な行動がとられる形になっていると思います」と明言した。財政当局が行動をおこしても日銀は「金利が上がらないようにする」わけである。

 こうした日本のマクロ経済政策の使い方は、以前であれば欧米では「異例」あるいは「異様」と形容されたはずだが、最近ではむしろ「手本」にする向きが出てきている。

急速に拡大する米国の財政赤字

 米国では「MMT(現代貨幣理論)」の提唱者・賛同者が、日本の状況を参考にしつつ、財政の大規模な出動が可能と主張しており、そうした考え方を民主党左派の複数の有力議員が取り入れている。また、米国の共和党は、財政規律の面で厳しい、「小さな政府」に向けた歳出抑制・減税志向の強い政党という色彩が以前は濃かったのだが、トランプ大統領が登場して共和党内でのグリップを強めてからは、そうした色彩が薄くなった感が強い。そして、米国の財政赤字は急速に拡大している。また、すでに触れた通り、トランプ大統領は利下げに賛成しそうな人物をFRB理事の残る空席2つに充てようとしている。

 しかもユーロ圏では、ポピュリスト政党の連立政権になっているイタリアで、日本の財政・金融政策が注目を浴びており、イタリア版アベノミクスを目指す声があるという。

常識が次々と覆される人事

 イタリアによる半ば意図的とも考えられる財政規律違反に対し、EUは厳しい態度をとることができていない。欧州委員会は7月3日、イタリアに対する「過剰財政赤字是正手続き」入りを現時点では見送ることを決めた。昨年秋~年末にもこうした場面はあったが、クリスマス前に妥協した。今回は欧州人が大切にするバカンスシーズン前でもあり妥協するだろうと、筆者はみていた。

 さらに、仏財務相などの経歴から「金融政策よりも財政政策の方が専門分野」(7月3日 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル社説)のラガルドIMF(国際通貨基金)専務理事がECB(欧州中央銀行)総裁に指名された。市場の認識では、ラガルド氏は量的緩和や利下げに積極的な「ハト派」であり、ある意味、象徴的な人選である。この2つの材料で伊10年債利回りは急低下し、一時1.6%を割り込んだ。

 なお、18年6月に就任したデギンドスECB副総裁は前職がスペイン経済相である。中央銀行で実務のキャリアを積んでいない政府出身の人物が、ECBのトップの地位2つを占めることになる。

 「令和」はどうやら、従来の常識がいくつも覆されていく、混とんとした時代になりそうである。

★休載のお知らせ★

筆者の都合により、7月23日の当コラム「上野泰也のエコノミック・ソナー」は休載いたします。次回は7月30日になります。