「老後2000万円問題」も逆風

 また、すでに整理して述べた通り、マイナス金利深掘りはハードルがかなり高い。それに付け加えて、直近の話題の関連で言うと、金融庁審議会報告書をきっかけにした「老後2000万円問題」によって保有している金融資産の金額が絡む形で国民の不安心理が刺激されている中で、「マイナス金利」という消費マインドにとりネガティブな言葉が注目を浴びることになるのは、明らかに具合がよくない。

 個人の預貯金にもマイナス金利が課されるのではないかといった誤解が広がる場合もあろう。消費者の支出行動が高齢層を中心に萎縮してしまい、景気に悪影響を及ぼす可能性がある。10年債利回り変動許容幅の上下0.3%への拡大による一段の長期金利容認も、円高を阻止しようとする上で、大きな効果は期待し難い。

 そうした中で、為替市場における海外のプレーヤーに多少はアピールする面があると考えられるカードめいたものが、「ステルステーパリング終了(あるいは停止)宣言」である。「ステルステーパリング」というのは、政策として明示することなく、日銀による市場からの長期国債買い入れ額が徐々に減り、(償還分も加味された)日銀保有長期国債残高の前年同月と比べた伸びが縮んできていること(およびそのことによってマネタリーベースの伸び率が鈍ってきていること)である<図1>。

■図1:日銀保有長期国債残高(月末) 前年同月末差
■図1:日銀保有長期国債残高(月末) 前年同月末差
(出所)日銀資料より筆者作成
 

 政府が新たに発行する(供給する)金額と、日銀が市場から買い入れる(吸収する)金額とがほぼイコールになるところまで、日銀による長期国債買い入れのペースダウンは進んできている。その後、5月末には、日銀保有長期国債残高の前年同月末との差額が30兆円を下回った。長期国債買い入れの持続性を高める観点から、日銀金融市場局が長期国債の買い入れ額を減らす必要性は、明らかに減じている(むろん、個別の年限区分における需給調整が必要なケースはこれからも生じ得るが、マクロ的にはそうした結論になる)。

「ステルステーパリング終了宣言」が次の一手?

 上記の関連では、「日銀幹部は『政府による新規の国債発行が30兆円超ある。日銀が市場に同額程度の購入意欲を見せなければ10年債利回りをゼロ%程度に据えることが難しくなるため、日銀の年間増加額がゼロに近づくことはありえない』と話す」という記述を含む記事が「金融財政事情」5月27日号に掲載されたことも、注目に値する。

 FRBは、バランスシート縮小の停止時期を今年9月に前倒しした。ECBは、再投資政策を実施してバランスシートの規模を維持しているが、追加緩和オプションの1つに量的緩和再開を挙げている。「緩和競争」のライバルがいずれもバランスシート政策で動きを見せている中で、日銀としてこの面で何も動きを見せないのは、不釣り合いに映る。

 しかも、すでに述べたように、リフレ派の側では「ステルステーパリング」への不満がくすぶっているようである。「金融緩和に積極的な日銀内のリフレ派幹部からは『量的緩和の効果が不透明になっている』との声が出ている」(6月15日付 日本経済新聞)という。

 日銀は16年9月の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」導入時から、長期国債の買い入れ額の数字を「目標」から「めど」に格下げしており、「保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買い入れを実施する」という文章は空文化している。

 とはいえ、実態として長期国債のフローの買い入れ額が減ってきていることは、黒田総裁も公に認めている。直接の弊害・副作用が乏しい「ステルステーパリング終了」宣言によって、日銀が緩和姿勢をとりあえず強めているという印象を海外のプレーヤーに与えて多少なりとも円高圧力をかわすことができそうなら、日銀が検討してみる価値はあるのではないか。

 日米欧の中央銀行の金融政策を巡っては、この先さらに活発に議論されて、市場関係者からは、奇抜なものも含めて、さまざまなシナリオが提示されていくだろう。

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