黒田東彦日銀総裁は6月18日の参院財政金融委員会で、午前と午後の2度にわたって質疑に応じた。金融政策決定会合の2営業日前から会合終了当日の総裁記者会見終了までの間は、金融政策・金融経済情勢に関する対外発言が禁じられる「ブラックアウト」期間になっているのだが、国会で発言する場合は例外になっている。
午前は、リフレ派とみられている渡辺喜美議員が質問。イールドカーブコントロールの下で日銀が長期国債の買入額を減らしていることは金融引き締め的ではないかとの問いに、黒田総裁は「そのようには考えていない」と述べ、これを否定。「イールドカーブコントロールの枠組みは極めて緩和的な金融環境を作り出し、企業や家計の経済活動をしっかりとサポートしている」と説明した。
利下げ競争の号砲が鳴った
午後は、異次元緩和に批判的とみられている藤巻健史議員が質問。金融緩和政策と年金運用の関係について黒田総裁は、「長期や超長期の金利が過度に低下した場合、積立金の運用利回りに影響を及ぼし得る点には注意が必要だ」と述べた。
もっとも、年金は株式など国債以外の金融資産でも運用しており、「経済が全体として改善すれば、年金収支の改善にもつながる面がある」「(日銀の金融緩和政策の下で)実体経済は大きく改善しており、こうした点も合わせて評価する必要がある」とした。長期・超長期ゾーンの金利がさらに低下しても、内外で株価が高くなれば、年金運用のリターンは向上する。もっとも、為替が円高に大きく動く場合、日本株が下落しがちになる上に、外国債券・株式が円換算で大幅に減価するため、運用実績は悪化する。
年金運用への悪影響を引き合いに出すまでもなく、これから最も起こってほしくないと日銀が内心でおそらく考えている出来事は、日銀が掲げている強気の景気・物価シナリオを根底から覆しかねない、円高の大幅進行だろう。
急速に利下げに傾いているFRB。これに対抗して追加緩和の用意をドラギ総裁が強くアピールするに至ったECB。中銀による「緩和競争」の号砲はすでに鳴った感が漂う。
FRBと為替の動きをにらみながら、ECBは7月の理事会でフォワードガイダンスを書き換えて、政策金利が「現行水準ないしそれ以下に」今後とどまると見込まれる期間を示すことによって、利下げに含みを持たせつつ、時間を稼ごうとするのではないか。その後に実際に利下げするのか、それとも量的緩和を再開するのかは、状況次第だろう。
日銀は、そうしたFRBやECBの動きを市場が材料として消化していく中でのドル/円相場の動向(特に100円ラインを試すかどうか)次第で、追加緩和カードをどのような組み合わせでいつ切るのかを決めていく意向だと推測される。
フォワードガイダンスの強化というのは言葉をいじるだけであり、最も使いやすい追加緩和のカードではあるのだが、その円高阻止効果にはどうしても疑問がつきまとう。
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