市場の一部では、為替の円高進行阻止を目的とする追加緩和パッケージの一環として、日銀がマイナス金利を深掘りする(マイナス金利の幅を0.1%から拡大する)のではないかという予想が出てきている。

 だが、この追加緩和策の実行はハードルが相当高いと、筆者はみている。この問題に関する論点と筆者の考えを、「日銀は追加緩和でマイナス金利を深掘りできると主張する論者が根拠にしそうな点」と、「それに対する筆者の反論」という形式で、整理してみた。

【マイナス金利深掘りに賛成する論者が根拠にしそうな点】

  1. 地域金融機関を含む本邦金融機関の収益状況悪化は、日銀のマイナス金利が主犯というわけではない。人口減・少子高齢化やビジネスモデル刷新の遅れといった、構造要因の影響が大きい。そのような認識は、新聞や経済雑誌の特集記事(たとえば日本経済新聞が掲載した「地銀決算 焦点を読む」)から、徐々に世の中で広がってきたと考えられる。さらに、政府の新たな成長戦略案には、独占禁止法の適用除外を10年間認める特例法を制定することで、経営が厳しい地方銀行の再編を集中的に促す方針が盛り込まれた。
  2. マイナス金利を深掘りする一方で、長期金利ターゲットはゼロ%程度で据え置き、イールドカーブをスティープ化させれば、長短金利差の享受を柱にしている金融機関収益への悪影響は、かなり回避できるのではないか。
  3. マイナス金利深掘りを含む日銀の追加緩和によって為替の円高・ドル安が食い止められるなら、国内景気の悪化が深くなることはないだろうし、結果として金融機関の収益にもポジティブである。
  4. マイナス金利深掘りとセットで、日銀がマイナス金利による金融機関向けの貸し出しをすることにより、金融機関の収益を補てんするアイデアは機能しないだろうか。

日銀による金融機関への「補助金」は反発招く

【上記それぞれに対する反論】

  1. 確かに、貸出約定平均金利の低下トレンドは、日銀による異次元緩和導入よりも前からの現象であり、日本の貸出市場の需給の悪さは構造要因がベースにある。だが、景気が循環的に下を向いているタイミングで銀行の収益環境がさらに悪化することは、経営基盤が相対的に弱い金融機関を中心とする貸出姿勢の慎重化につながって、金融面から景気の悪化を増幅する恐れがある。また、独禁法適用除外の特例法案は来年の通常国会に提出されると報じられており、かなり時間がかかる話である。
  2. こうした考え方は、金融機関経営の現場感覚が欠如した机上の空論と言わざるを得ない。一般預金者向けに預貯金金利をマイナスにするのは現実問題として困難。本邦金融機関は「カネ余り」状態にあり、マイナス金利で大量に市場から資金調達しているわけでもない。その一方、程度の差こそあれ市場金利が下がる中、貸出約定平均金利は低下が避けられず、金融機関の利ざやは縮小する公算が大きい。
  3. マイナス金利を深掘りすれば円高・ドル安が必ず止まるという保証はどこにもない。実際、日銀がマイナス金利を導入した際は、東証で銀行株が大きく下落し、株安を通じて「リスクオフ」の円高が進行するという動きが見られた。
  4. マイナス金利貸出は、うまくワークしない可能性が高い。筆者がそう考えている主な理由は、以下3点。
  1. マイナス金利で日銀から資金調達する形になる、いわば「ヒモ付き」の部分以外でも、借り手から金利引き下げの要請が広範に強まる可能性が高い(貸出金利の広範な低下によって金融機関の収益はかえって悪化しがちになる)。
  2. マイナス金利の深掘りで市場金利が全般に低下すれば、そうした側面からも貸出約定平均金利の低下圧力は増大する。
  3. 日銀による金融機関への「補助金」支給的な動きに対して世論が反発し、国会での論戦に耐えられない恐れがある。

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