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6月6日、記者会見するドラギECB総裁(写真:ロイター/アフロ)
 

 ドラギECB(欧州中央銀行)総裁は金融政策を話し合う理事会が終わった後の6月6日の記者会見で、次の動きは利下げよりも利上げになるかと問われ、「答えはノーだ」と断言。ECBには状況が急に悪化した場合に利用可能なあらゆる手段を活用する用意があり、(金融緩和方向の)政策余地は存在すると強調したドラギ総裁は、追加利下げ(マイナス金利幅の拡大、いわゆる「深掘り」)や資産購入プログラム(いわゆる量的緩和)の再開を含めて、追加緩和について具体的な議論をしたことも明らかにした。

事前予告としては不十分

 だが、市場の目には、ドラギ総裁のこうしたメッセージは金融緩和の予告としては不十分に映り、為替市場でユーロが対ドルで上昇した。ECBが米連邦準備理事会(FRB)に「緩和負け」するという読みに沿った動きである。ユーロが上昇すれば、ユーロ圏の景気・物価に対しては、利上げを行うのと同じ方向、すなわち下押し方向の圧力が加わってしまう。

 その後、福岡で開催されたG20(20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議に出席したユーロ圏の中央銀行当局者にも取材したとみられる、福岡・フランクフルト発のロイターの記事「ECB政策当局者、成長鈍化なら利下げに前向き=関係筋」が6月9日夕刻に配信された。

 この記事によると、関係筋の1人は、現在▲0.4%のマイナスになっている預金ファシリティー金利のマイナス幅を拡大する主な目的は「すでに超低水準の借り入れコストを一段と下げることではなく、ユーロの上昇を抑制することだと説明」した。「『利下げの理由は5つある』とし、『為替相場』と5回繰り返した」「同筋によると、1ユーロ=1.15ドルはまだ一定程度、許容可能な水準だが、1.20ドルは注視すべき重要水準となる」という。

 「ECBの金融政策の主要な目的は、物価安定を維持することである。ECBは2%未満だが2%に近いインフレ率を中期的に目指す」。ECBのホームページで金融政策に関する記述を見ると、冒頭に上記の文章がある。だが、グローバル化・IT化(デジタル化)という構造的な物価上昇抑制圧力の存在ゆえに、2%弱の消費者物価(HICP)上昇率が、なかなか実現しない。金融市場のユーロ圏についての期待インフレ率を示す、インフレスワップ5年先スタート5年物フォワードレートは、6月17日に1.1275%まで低下し、過去最低を更新した。

 こうした状況下、インフレ率が目指す水準に達することへの疑念を当局者らは深めているとデコス・スペイン中央銀行総裁が発言するなど、ECBの理事会メンバーには焦りの色が見える。1-3月期のユーロ圏の賃金は前年同期比+2.5%になり、2010年にこの統計が開始されてから最大の増加率になった。だが、賃金連動が基本であるはずのサービスの物価上昇力は、鈍いままである。

 デギンドスECB副総裁は6月13日に行われた伊紙インタビューで、上記のインフレスワップの低下に関連して、「(ECBが4月に公表した)専門家予測調査を見ると、状況はやや異なる。インフレ期待は安定を維持している」「どのようになるか見てみよう。ただ、われわれの姿勢として重要なことは、対応する準備が完全に整っているということだ」と述べた。4月の専門家予測調査でHICPは、19年が前年比+1.4%、20年が同+1.5%、21年が同+1.6%。ECBは期待インフレ率の押し上げに向けて行動する用意はあるが、市場ベースの数字だけでは動く根拠が不十分であり、次回7月の専門家予測の数字がどうなるかを見極めたいのだろう。

 ところが、FRBにECBが「緩和負け」するという思惑から上記の通りユーロ高が進んだため、ドラギECB総裁は6月18日、物価が低迷を続ければ追加緩和に動くという、より強い決意を表明した。マイナス金利の深掘りが第1の選択肢になっているとも報じられている。ECB理事会内の同僚には相談せずに、独断で行ったとみられるこのドラギ総裁の発言がサプライズになった為替市場では、いったんユーロを売り戻す動きが広がった。

 ECBが感じているような一種の「追い込まれ感」は、日銀も徐々に感じているはずである。ドル/円の取引では円高・ドル安が進行したが、クリティカルな100円ラインまでは距離がまだある。けれども、FRBが実際に利下げに動いた場合には、米国株の動き方との兼ね合いになるため幅は不明確だが、円高・ドル安がさらに進むことは避けられまい。