
「物価」「景気」「金融市場」の3方面、「トランプ政権からの圧力」を加えれば4方面から、米FRB(連邦準備理事会)が近い将来に利下げに動くのはもはや避けられなくなったと、筆者は判断している。
物価について言えば、刈込平均値(価格変動が大きい上下10%の品目を除いて掲載した平均値)などテクニカルに加工した数字でPCE(個人消費支出)デフレーターを見た場合でも、複数の構造要因から、FRBの目標である2%を下回る期間がかなり長くなっているという事実は動かない。物価指標を加工して別の角度から見せることによって中央銀行のメンツを保とうとする試みが結局は失敗してしまうという、日銀の前例もある。
物価が上がりにくい事実は動かず
物価上昇を抑制する構造的な下押し圧力が一時的な要因ではないことを、パウエルFRB議長も公に認めている。刈込平均値などを用いることで物価指標の数字の一時的な下振れを説明することは可能でも、PCEデフレーターのコア部分が2%未満に長くとどまっていることの説明にはならない。端的に言えば、「物価が上がりにくいという事実」は動かない。
さらに、金融市場に詳しいクラリダFRB副議長らが心配している、長期の期待インフレ率が目標である2%あたりから不可逆的に下方シフトしてしまう懸念について言えば、市場や家計が参照して先行きのインフレ率を予想するための判断材料にするのは、普通に考えれば、加工していない物価指標である。
そして、FRBの信認を維持するためには、目標対比の物価下振れ長期化に対する目配りがしっかりなされていることを、いわばデモンストレートする、行動で示す必要があろう。FRBのバランスシート縮小停止をテクニカルな側面からの決定とすでに位置付けてしまっている以上、残された手法は政策金利の引き下げということになる。
以上は物価面からの「利下げ催促」要因の説明だが、足元では米中貿易戦争の激化という重大な動きがあり、年後半の世界経済リバウンド期待が明確に損なわれている。
6月3日にはブラード・セントルイス連銀総裁(今年のFOMC<連邦公開市場委員会>で投票権を保有する)が米景気減速懸念の強まりを理由に「近く利下げが正当化され得る」と明言。その後、パウエルFRB議長も利下げの可能性に言及し、市場で材料視された。
3カ月物と10年物の米国債利回りで見た場合の「長短金利の逆転」が続いており、米国のリセッション(景気後退)入りを警告している。いわゆる「ビハインド・ザ・カーブ」(金融市場における金利形成に中央銀行が出遅れている状態)に陥った格好のFRBが、そうした現象(市場の声)をこのまま無視し続けられるとは、筆者には思えない。
また、金融政策変更の効果が実体経済に及ぶまでにはラグ(時間差)がある。政策変更がリアルタイムで効くのは金融市場に対してであり、FRBはとりあえず市場の反応(顔色)をうかがいながら、舵(かじ)取りしていかざるを得ない。そして、今の米国株はFRBが年内に利下げに動くだろうという期待によって、相当下支えされている。
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