
日本で10連休が終わった後、5月9~10日にワシントンで開催された米中の閣僚級貿易協議は、決裂に近い終わり方になった。2日目の討議の前、米国は2000億ドル相当の中国製品を対象とする制裁関税の税率を10%から25%に引き上げたのだが、中国側は譲歩しなかった。米国は中国からの輸入品すべてに追加関税を課す構えをとっており、トランプ大統領は中国に対して報復措置をとらないよう警告した。
しかし、中国は13日、18年9月に5~10%の追加関税をかけた600億ドル相当の米国製品について税率を最大25%に引き上げる対抗措置を発表。「米中貿易戦争」がエスカレートする懸念が増大したため、米国の主要株価指数は急落し、安全資産である米国債の利回りは大きく低下した。
トランプ大統領はこの閣僚級協議が物別れに終わることを十分覚悟した上で、6日の段階で中国に対する強硬姿勢を前面に出していた。市場には「これは交渉戦術の一環であって単なるブラフだ」と軽視する向きもあったが、誤った楽観論にすぎなかった。
2020年の大統領選で再選を目指すトランプ氏は確かに、中国との貿易協議を経ての大きな成果という、選挙民にアピールしやすい実績が欲しいはずである。だが、米国側から見て中途半端で実効性が不十分な決着を、トランプ氏や対中強硬派のライトハイザーUSTR(米通商代表部)代表は望んでいないだろう。
米中の対立はまだまだ続く
いずれにせよ、太平洋を挟んだ米国と中国の対立関係は、中長期的に続いていく類のものである。貿易問題で部分的に手を握るとしても、本質的な結末にはなり難い。
すでにトランプ政権の「外」に出た人物だが、今でもトランプ政権の動きの根底にあるものを的確に把握しているとみられるのが、スティーブン・バノン氏(元首席戦略官)である。
そのバノン氏が5月6日、米紙ワシントン・ポストに寄稿した。その題名は、「われわれは中国との経済戦争の渦中にある。妥協するのは不毛だ(We’re in an economic war with China. It’s futile to compromise.)」である。その中には以下の文章が見いだされる(上記の題名を含め、和訳は筆者)。
「しかし今月、ワシントンと北京が何カ月にもわたる貿易問題の協議を締めくくる時に何が出てこようとも、それは貿易面のディール(a trade deal)ではない。それは長年にわたる経済および戦略的な中国との戦争における、一時的な休戦だろう」
「今や中国は、米国がこれまでに直面した中で最も大きな経済および国家安全保障上の脅威として浮かび上がっている」
「今月に交渉下にある貿易面のディールは、ウォール街・マスコミ・学界のチアリーダーが議論するような、2つの似通ったシステムがより緊密な結びつきを求めるディールではない。むしろ、これは2つの極端に異なる経済モデルの根本的な衝突だ」
「中国は米国とは異質であり、米国にとって経済のみならず安全保障上の大きな脅威である」という警戒論は、共和党に限らず、米国の政界で近年広がっている考え方である。貿易協議における「一時休戦」の有無にかかわらず、米中の対立関係は「リスクオフ」の材料として、この先長い年月にわたって意識され続けるだろう。
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