
筆者を含む金利周りの市場関係者が最近認識を強めているのが、「景気から物価」へとFRB(米連邦準備理事会)の金融政策運営は軸足をシフトさせつつあり、もっぱら物価の下振れリスクへの対応で「保険」的な利下げが今後あり得るのではないかということである。
これには少し説明が必要になる。日銀の場合は、安倍首相による「レジームチェンジ」後、「物価安定の目標」である上昇率2%のできるだけ早い達成が最重要課題になっており、終わりの見えない「持久戦」を展開中。ECB(欧州中央銀行)は物価安定を唯一の責務とする中央銀行であり、政策運営の軸足はもともと物価にある(物価上昇があまりにも鈍いので利上げ開始が困難になっており、先行きは利下げかとの思惑も浮上している)。
市場の大きな関心事になっているのは、FRBのスタンスである。法律で課されている「二重の責務」である「最大雇用」と「物価安定」のうち後者、すなわちインフレ目標である2%の達成が困難な状況が長引いている中で、「好況期には物価の目標対比上振れ・不況期には物価の目標対比下振れ」を容認する政策運営へと、FRBはシフトしつつあるのではないか。
成功していないインフレ目標
少なくとも、上がりにくい物価の面から、FRBが追加の利上げに動くためのハードルは非常に高くなりつつある。4月15日には今年のFOMC(米連邦公開市場委員会)で投票権を有している地区連邦準備銀行(連銀)総裁2人が相次ぎ、下記のような「インフレ目標になっている2%は決して上限ではなく、この水準をある程度超える物価上昇が許容される時間帯を含むレンジで考えるのが望ましい」とする主張を展開した。
「米国ではどうだろうか? (FRBの金融)政策は最大雇用の責務を果たす点では成功しているが、インフレ目標に関してはあまり成功していない。先ほど触れた通り、景気回復期間の大半でインフレ率は執ようにわれわれの目標を下回っており、インフレ期待は今日、インフレ率がより上下対称的に2%近辺で推移していた初期段階よりも、かなり低くなっているように見える」
「この問題を解決するため、半分の時間においてインフレ率が2%をモデスト(穏当)に上回ることを、FRBは受け入れなければならないと、私は思う。むろん、明確な上昇方向のモメンタムがなく、2%に戻る道筋がうまく管理され得る限りにおいて、公的には2.5%のコアインフレ率(変動が激しい食品・エネルギーを除いたインフレ率)でも快適だと言えるだろう」
「低金利の状況では金融政策の範囲に制約があることを意味しており、景気下降期間に金利は実質的な下限に到達する可能性が高い。すると、このことは、インフレ率が目標を上回るよりも下回る可能性が高いことを意味している」
「この難題に対して1つ考え得る解決策は、実質的な金利の下限に制約される景気後退期間中のインフレ率の下振れを、景気回復期間中のインフレ率の上振れで相殺することだろう。言い換えると、FRBは景気サイクルの平均でインフレ目標達成を目指すことができる。目標を中心とするレンジ内でインフレ率が動くことが許容される」
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