ムーア氏が正式にFRB理事に指名されれば、上院銀行委員会で指名承認公聴会が開かれることになる。その際、「トランプ色」が濃すぎるとして民主党議員が強く反対することは確実な情勢だ。

 一方、上院で過半数を占める共和党議員のスタンスは、現時点では未知数。だが、トランプ大統領支持で相当固まっている共和党の上院議員のうち何人が、自らの良識に沿って大統領の人選に反対票を投じることができるのだろうか。上院銀行委員会のクラポ委員長(共和党)はロイターに対し、この件に関するコメントを拒否した。

 そうした中、3月25日にフィラデルフィア地区連銀のパトリック・ハーカー総裁が、ムーア氏指名問題に言及したことが、筆者の目を引いた。

 同総裁は、ムーア氏のFRB理事としての資質についてはコメントを差し控えつつ、多数決で米国の金融政策を決定する米連邦公開市場委員会(FOMC)に参加している地区連銀総裁というのは「非常に安定した力」であり、大統領が指名する理事とのバランスをとる存在だと指摘。その上で、「われわれは、大統領のご機嫌をとるようなことはしない」と述べた。中央銀行の政治からの独立性を、地区連銀総裁の側からできるだけ守ろうとする気概を示した、頼もしい発言である。

 ムーア氏指名問題が物議を醸す中、トランプ大統領の側近の1人であるケビン・ハセットCEA委員長は3月27日、CNBCテレビによるインタビューの場を利用し、事態の沈静化を図った。

 ハセット委員長は、大統領が実際にムーア氏を指名するかは100%確実ではないとの認識を示した上で、ムーア氏が「評論家としてのキャリアを通じ、さまざまなトピックに関して非常に興味深い発言をしてきたことは確かだが、(FRB理事の)候補者となればあらゆるささいな言葉にも、もっと注意を払う必要が出てくる」「正式に候補者となった場合は、評論家としての発言を控え、(上院での)承認(手続き)に向けた準備を始めるはずだ」と述べた。自らの立場をわきまえずに話を広げがちになっているムーア氏に、おきゅうを据えた形である。

 その一方、やはりトランプ大統領の側近の1人であるラリー・クドロー国家経済会議(NEC)委員長は3月29日、米ニュースサイトのアクシオス(AXIOS)に対し、「利下げが見たい」と発言。米国の政策金利(現在2.25~2.5%)は2%を超えるべきではないと述べて、FRBに対して0.5%幅の利下げを暗に求めた。

 そしてその直後、トランプ大統領がツイッター上で金融政策に言及。「インフレがほんのわずかしか見られていないのに、FRBが誤って金利を上げなかったら、そしてばかげたタイミングで量的引き締めをしていなかったら、3.0%の国内総生産(GDP)と株式市場は両方ともずっと高くなっていただろうし、世界の市場はもっと良い状況だったはずだ!」と述べた。

 さて、この問題はどう推移していくのだろうか。FRBの信認そのものにも大いに関わってくるため、市場関係者にとどまらず、注視が必要である。「日本だけでなく米国でも金融政策は『劣化』してしまうのだろうか?」といった危惧の声が、筆者の耳にも聞こえてくる。

 米国の3月の雇用統計が発表された4月5日、トランプ大統領は記者団に対し、「FRBは本当に景気の足を引っ張った。インフレはまったくない」「FRBは利下げすべきだと考える」と述べ、利下げを要求するのみならず、「金融政策は足元、量的緩和であるべきだ」とまで踏み込んだ。こうした大統領自身による金融政策への具体的で露骨な介入は、FRBの柔軟で機動的な政策運営を阻害する恐れがあるため、今後も注意が必要である。

 昨年12月の追加利上げは「余計」だったのではないかという見方が強まっており、だからこそパウエルFRB議長は、年明け早々にハト派に急旋回したのだとも推測される。だが、大統領が利上げするなと圧力を加える中では、たとえ株価が急落していても、政治圧力に屈したとみられないよう12月は利上げするしかない状況だった。トランプ大統領がFRBへの利下げ要求を自制した方が、景気減速の行き過ぎを回避するための「保険的な利下げ」に、FRBは動きやすくなる。

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