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トランプ大統領には、ムーア氏をFRBに送り込むことで金融政策に対する影響力を強めようとする狙いがありそうだ(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領は2019年3月22日、米国の保守系シンクタンク、ヘリテージ財団の客員研究員であり、2016年の大統領選でトランプ陣営の経済顧問として大型減税などを立案したスティーブン・ムーア氏を、空席が現在2つになっている米連邦準備理事会(FRB)理事に指名する意向を、ツイッターで表明した。「非常に尊敬されているエコノミストのスティーブン・ムーア氏をFRB理事に指名することを発表できてうれしい。スティーブを昔から知っているが、彼が素晴らしい選択を下すことに疑いはない!」というツイートである。

「パウエル議長批判」を弁明

 ムーア氏は最近、ジェローム・パウエルFRB議長は辞任すべきだと述べつつ、2018年までの利上げ路線を強く批判した人物である。もう1つのFRB理事の空席については、元ピザチェーン会社CEO(最⾼経営責任者)で12年の⼤統領選共和党候補指名争いにも出⾺したハーマン・ケイン⽒を充てる意向を、トランプ大統領が4月4日に表明した。

 3月22日のブルームバーグテレビによるインタビューで、ムーア氏は自らを「成長促進を支持するタカ派(growth hawk)」だと形容。昨年12月の追加利上げ<図>は「重大な過ち」であり、その後の米金融政策のハト派への方向転換に「ほっとしている」としつつも、利下げを実施すべきかどうかについては「分からない」「もっとよく見極める必要があるだろう」と述べた。

図 ■米国の主要政策金利(フェデラルファンドレート翌日物金利の誘導水準)
(出所)米FRB

 しかし、その3日後に当たる25日の米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によるインタビューでは、18年9月と12月に利上げした分を撤回する0.5%幅の利下げを検討すべきだと発言。さらに、翌26日の米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)によるインタビューでは、FRBは即座に0.5%利下げすべきだと踏み込んだ。短期間にコメント内容が相当変わってきているわけで、政策当局者に求められる発言の安定性が欠如しているというそしりは免れない。

 また、仮にムーア氏が実際にFRB理事になれば、「無能だ」とまで述べて自ら強く批判したパウエル議長の下で、少なくとも表面的にはうまくやっていかなければならない。世の中が抱かざるを得ないそうした危惧の念に配慮したのか、上記NYTインタビューでムーア氏は、パウエル議長は辞任すべきだと主張したのは遺憾であり「議長とはうまくやっていけると期待している」と弁明した。

 トランプ大統領はこれまで、パウエル議長率いるFRBの利上げ路線を執ように批判しながらも、人事権を活用してFRBを「トランプ色」に染めようとする動きは手控えてきた。そこに筆者は、「大人の対応」というか、中央銀行の政治からの独立性に配慮する自制心めいたものが残存しているとみていた(当コラム18年10月23日配信「トランプ大統領、FRB利上げに『文句は言う』が… 政策運営へは介入しない米国、人事に介入する日本」ご参照)。

ムーア氏に次期FRB議長の可能性も

 けれども、ムーア氏をFRB理事に指名しようとする今回の動きは、従来の路線から明らかに逸脱している。ムーア氏をFRBに送り込むことによって金融政策に対する影響力を強めようとする狙いがあることは明らかだろう。3月25日のWSJの報道によると、上院が承認してムーア氏がFRB理事になり、トランプ大統領が20年の大統領選で再選された場合、22年にムーア氏が次期FRB議長の候補者になる可能性があるという。