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 「英国の統計当局は先月、麻薬取引と売春を加えた場合GDPが約1%押し上げられ、その他の基準変更も実施すればGDPの規模が4~5%増えるとの推定を公表した」

 「一方、フランス統計当局は先週、違法な麻薬取引や売春は必ずしも双方の合意に基づいていないとして、いずれもGDPの算出項目に含めないと表明している」

 EU加盟国内でも、麻薬・売春取引のGDP統計上での取り扱い方はさまざまである。同じ時期には英国やイタリアの動向を前面に出した報道もあった。

 産経新聞は14年6月9日、「『麻薬、売春』でGDPかさ上げ 伊・英が地下経済を統計に加算 “やくざ経済”で日本も!?」と題した記事を掲載した。根幹部分は以下の通り。

 「イタリアと英国が麻薬取引や売春といった“地下経済活動”を国家の経済力を示すGDP統計に加算することを決め、波紋が広がっている」

 「欧州連合(EU)が、加盟国のGDPの算出基準を今年9月から均一化するのに伴う措置で、すでに一部合法の売春を統計に加えているオランダなどとの不公平をなくすのが狙いだ」

 「先月末にイタリアに追随した英国の国家統計局(ONS)の推計によると、麻薬取引や売春から生み出された違法マネーは、2009年で約100億ポンド(約1兆7200億円)に上り、GDPの0.7%分に相当する」

 「欧州ではオランダのほか、オーストリア、フィンランド、ノルウェーなどがすでに地下経済を加算しており、ユーロスタットの試算では、フィンランドとスウェーデンで4~5%、オランダ、オーストリアで3~4%の押し上げ効果があるという」

 また、フランスのAFP通信は同年6月25日に「麻薬、売春など地下経済をGDPに加算へ、英伊で動き」と題した記事を配信した。そこには以下の内容が含まれていた。

「イタリアでは財政赤字のGDP比率が低下」

 「イタリアは5月、麻薬取引や売春、酒類やタバコの密輸などを2015年からGDP統計に加算する方針を発表し、物議を醸した。欧州連合(EU)当局がこれを認めれば、財政赤字のGDP比率が低下する。これは財政赤字を対GDP比3.0%以内に抑えるというEU基準の達成を目指す国にとって大きな助けとなる」

 「イタリア銀行(中央銀行)の2012年の推計によると、同国の地下経済の規模はGDPの10.9%を占め、これを含めると経済成長率は政府統計の1.3%を上回る」

 「GDP統計への地下経済の加算は、EUが今年9月から加盟国のGDPの算出基準を改定することに伴い、EU統計局(ユーロスタット)が推奨している措置の一つだ。EU広報部は『GDPは道徳性の指標ではない』と述べており、GDP算出法が異なる加盟国同士の比較が容易になるとしている。また加算されるのは、合意に基づいた取引のみだと説明している」

 GDP統計は国の経済活動を測定する上での一種の決め事(割り切り)であり、(国際的な取り決めに参加するかどうかを度外視すれば)本来的にはいかようにも定義・ルールを定め得る。AFP通信の記事でEU広報部がコメントしている通り、道徳性の指標ではないから、非合法の経済活動(地下経済)の規模を推計して加算するのがいけないというわけではない。

 現時点での可能性はきわめて小さいが、日本もカナダのように嗜好性大麻を将来合法化する場合、内閣府は、少なくとも関連する合法的な経済活動をGDP統計に新たに計上するはずであり、日本のGDPはその分、大きくなる可能性が高い。

 だが、非合法の経済活動までGDPに計上するかどうかという問題では、道徳・倫理や社会における法規範の安定性も少なからず意識されるはずである。

 経済統計のカバレッジ・正確性をどこまでも追求する姿勢に拘泥しすぎることなく、国民各層を交えた議論をきちんと踏まえた上で結論を出していくべき筋合いの話だろう。筆者はそのように考えている。