オンラインでの販売や、アプリ経由の個人間の中古品の売り買いを含め、日本の個人消費の「最前線」の様相は、ここ数年で様変わりしている。とはいえ、消費をウォッチする際の伝統的手法を完全に捨て去ってよいわけでもないだろう。筆者が昔から注視している統計の1つが、全国百貨店売上高である。商品別の売上高の動きが、消費の実情の一端を浮き彫りにすることがある。

 昨年12月の全国百貨店売上高は、総額が前年同月比▲0.7%(店舗数調整後)で、2カ月連続の減少になった。構成比が高い「食料品」と「衣料品」がいずれもマイナス。そうした中で絶好調が続いているのが「化粧品」である<図3>。12月は前年同月比+4.1%で、45カ月連続プラス。最後に前年同月比マイナスを記録した15年3月は、消費税率引き上げ前の駆け込み需要で14年3月に急増したことの反動である。

■図3:全国百貨店売上高 前年同月比(店舗数調整後) 総額、「化粧品」
■図3:全国百貨店売上高 前年同月比(店舗数調整後) 総額、「化粧品」
(出所)日本百貨店協会

 その後、2月21日に発表された今年1月の全国百貨店売上高は、総額が前年同月比▲2.9%で減少続きとなったが、「化粧品」は同+0.3%で、小幅ながらも46カ月連続の増加を記録した。発表直前に社内で化粧品販売の底堅さを指摘していた筆者としては、胸をなでおろす数字だった。

1人当たり実質賃金の伸び悩みも「寄与」

 毎月勤労統計の不適切手法での調査実施問題に端を発して、年明け後に、1人当たり実質賃金の伸び悩みが世の中で改めて意識されている。そのことも陰に陽に寄与して、国内では消費マインドが弱含みとなっている。また、すでに述べたように中国人などのインバウンド消費が勢いを弱めている。にもかかわらず、百貨店では化粧品の売り上げがなお増えている。

 その理由として考えられるのは、①国内の2人以上世帯で「財布のひも」を女性側が握っている場合が少なからずあると考えられること、②若年層が「デパートコスメ(デパコス)」に戻ってきていること、③インバウンド消費において日本の化粧品に対する需要が他の多くの商品に比べれば底堅いという事実、以上3点である。

 上記③の関連で筆者の目を引いたのが、2月8日に過去最高益の決算を発表した日本の大手化粧品会社の社長による、中国事業に関するコメント内容である。

 「1月の店頭販売はプレステージ系で前年比40%を超えて伸びており、減速感がまったくない」と説明した同社の社長は、月次調査でも化粧品の購買意欲は落ちておらず「他の産業より耐性があるのではないか」との認識を示した。ただし、インバウンド消費については、転売抑制を図る中国の電子商取引法の影響で1月のバイヤー(代行購入業者)への販売が20%近く落ちている。その一方で、個人旅行者への売り上げは伸びているのだという。

 景気が腰折れ含みで推移する中、日本の化粧品販売の底堅さは、明るいニュースである。

 そうした中、百貨店大手が売り場の構成を大きく変えようとしているという報道が出てきた。読売新聞が2月25日朝刊に掲載した「百貨店 婦人服を縮小 カフェ・化粧品へ転換」である。

 この記事によると、百貨店各社は「集客の中核に位置づけてきた婦人服売り場を縮小し、化粧品や美容といった訪日客に人気の売り場やカフェなどへの転換を進めている」「低価格のファストファッションやネット通販の台頭で、衣料品販売の減少に歯止めがかからないためだ」という。17店舗を展開しているある大手は、17年から5年間で婦人服売り場のスペースを全体で3割減らす計画を進めるという。

 記事には、「長年、多くの百貨店は、婦人服売り場を入り口に近い低層階に展開し、集客のカギとしてきた。女性が家族連れで訪れ、化粧品や雑貨、上層階の紳士服売り場を回ることで、店舗全体への波及効果が期待できた」とある。

それでもやめられない婦人服

 1月の全国百貨店売上高を商品別に見ると、すでに述べたように「化粧品」が46カ月連続で増加している一方、伝統的に主力である「婦人服・洋品」は前年同月比▲5.4%(3カ月連続減)。衣料品全体では7カ月連続で減っている。また、ひところ人気を博したデパ地下の「総菜」は同▲1.0%(3カ月連続減)、「美術・宝飾・貴金属」は同▲2.2%(5カ月ぶり減)、「家庭用品」が同▲3.3%(37カ月連続減)、「食堂喫茶」が同▲3.0%(21カ月連続減)、「商品券」が同▲7.0%(95カ月連続減)などとなっている。

 もうかなり前のことになるが、東南アジアの国々から研修に来た人々にレクチャーした際、筆者は日本の百貨店の売り場構成を紹介。1階に化粧品や雑貨、2階から4階くらいまでは婦人服売り場が並び、紳士服は上のほう。財布のひもを握っているのは奥様であることが多く、ご主人はお金を出して荷物持ちをするのが日本では一般的だと説明したら、これが大うけした。男性陣は「俺の国でも同じだ」と口々に言いながらうなずいていた。

 そうした「定番」の売り場構成が変わろうとしているのだから、これは実に大きな変化である。それだけ、人口減・少子高齢化が進む中でのサバイバルを、百貨店業界が深刻にとらえていることの表れだろう。

 この記事には、「ただ、全売上高に占める婦人服・洋品の割合は、10年前に比べて4.7ポイント低下したものの、19.2%で依然として高く、婦人服に代わる確たる収益源を見いだせていないのが現状だ。『当面、婦人服売り場は聖域として重視せざるを得ない店は多い』(関係者)との見方もある」とも最後に書かれている。業界内には、やはり迷いがあるのだろう。売り場構成を変える会社と変えない会社に分かれるのかもしれない。それぞれがどのような売り上げ実績になるのか、要注目である。

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