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 黒田東彦総裁は昨年12月20日の金融政策決定会合終了後の記者会見で、追加緩和について次のように述べていた。

 「将来、『物価安定の目標』に向けたモメンタムを維持するために必要と判断されれば、もちろん適時・適切に追加緩和を検討していくことになると思います。その際には、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』の導入時に公表した通り、緩和の手段として、短期政策金利の引き下げ、長期金利操作目標の引き下げ、資産買入れの拡大、マネタリーベースの拡大ペースの加速など、様々な対応が考えられますが、いずれにせよ、そうした事態になったときに適切に判断して行うことになると思います」

 つまり、日銀が打ち出す可能性がある追加緩和手段は、①短期金利引き下げ(マイナス金利深掘り)、②長期金利引き下げ(ターゲット「ゼロ%程度」引き下げ)、③資産買い入れの増額、④マネタリーベースの増額、⑤それら以外の手法に分類することができる。

 そして、日銀が追加緩和に追い込まれる上記①~⑤の具体案を、実現する可能性の有無・大小にかかわらずとりあえず列挙すると、以下のようになる(普通の循環的な景気後退や物価下落ではなく、日銀のシナリオを根底から覆しかねない円高ドル安を阻止する必要が生じた場合だという現実的なシナリオ想定に基づく。かつ銀行・保険・年金業界のマイナス金利批判や長期国債買い入れの将来の物理的限界といった諸般の事情を考慮する)。

  1. 完全裁定後のマイナス金利適用額を減らす方向の(マイナス金利による金融機関収益への直接の悪影響を減らす措置を伴う)マイナス金利の「深掘り」(マイナス金利の幅拡大という利下げを市場ではこう呼んでいる)
  2. 上記①と組み合わせての長期金利ターゲット「ゼロ%程度」引き下げ(長期金利ターゲット単独の引き下げでは追加緩和の出し渋り感があるため、円高が止まりにくい)
  3. 外債買い入れ(90年代から議論されてきた日銀による金融市場調節としての米国債などの買い入れ。財務省の強い反対を乗り越え、かつ米トランプ政権の厳しい監視の目をかわせることが実現するための条件になる)
  4. 円高への緊急対応で一時的に「量」を並行的なターゲットに格上げした上で、長期国債買い入れを増額
  5. 「ヘリコプターマネー」実施の演出(新たな経済対策に伴う政府の国債増発・市中消化額上積みとほぼ同時に、日銀がそれに対応する額の長期国債買い入れ上積みを決定するパフォーマンス)

 以上の5ついずれについても、大きな難点があることは否めない。
たとえば、①では、銀行貸出金利への低下圧力増大(収益悪化)や消費者のマインドへの悪影響を回避し切れない。③は、かっこ内に書き込んだ2つの条件をクリアするのがきわめて難しい。日銀による事実上の「第2介入」実施は、トランプ政権からの強い非難に直面するだろう。

日銀が「究極の選択」を迫られる可能性

 ④は、巧妙な説明が要求される上に、すでに触れた「ソロスチャート」的な関心を為替市場がかなり強く抱いていなければ、円高の阻止で大きな効果は期待できない。⑤は、究極の円高阻止策として筆者が以前から想定している選択肢だが、国会で「ヘリコプターマネー」導入を強く否定したことがある麻生太郎財務相が昨年の内閣改造で続投したことや、近く始まる日米間の新しい貿易協議で米国側が「為替条項」を要求する姿勢であることなどを考慮すると、ハードルは以前よりも高くなっていると言わざるを得ない。

 異次元緩和の序盤で「短期決戦」による決着を信じて弾を撃ち過ぎた結果、日銀の弾薬庫はもはやカラに近い状態になっている。

 それでも、円高が一段と進行して100円ラインに迫る場面になれば、追加緩和を日銀に求める声が政治の世界や産業界などから高まるだろう。

 日銀は、追加緩和を真剣に検討している姿勢を示す動きを見せたりして(リフレ派の政策委員から追加緩和の議案が出されて賛成票が3まで増えることもあり得る)、嵐が過ぎ去るのを待つことになるのだろうが、それで済むかどうか。日銀が「究極の選択」を迫られる可能性は否定できない。