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 しかし、マネタリーベースの前年同月比プラス幅は着実に縮小してきており(18年に前月から伸びが加速したのは5月のみだった)、18年12月の平残前年同月比は+4.8%。日銀当座預金残高と流通現金(日銀券発行高と貨幣流通高の合計)に分けて前年同月比への寄与度を計算すると、それぞれ+4.07%ポイント、+0.75%ポイントである。マネタリーベースの伸びがピークをつけた14年2月(前年同月比+55.7%)時点では、寄与度はそれぞれ+53.23%ポイント、+2.46%ポイントだった。日銀当座預金のプラス幅が縮小したことが、マネタリーベースの伸び率鈍化の「主役」であることがわかる<図1>。

■図1:マネタリーベース(平均残高)前年同月比への日銀当座預金残高および流通現金の寄与度
(出所)日銀資料より筆者作成

 マネタリーベース(平均残高)の前年同月差をとる場合も、日銀当座預金残高の増え方が鈍ったことが「主役」であることが確認される。長期国債買い入れにおけるいわゆる「ステルステーパリング」(日銀による長期国債買い入れの緩やかな減額)が、その背後にある<図2>。

■図2:マネタリーベース(平均残高) 前年同月差の内訳 日銀当座預金残高および流通現金
(出所)日銀資料より筆者作成

 もっとも、残高自体が時間の経過とともに膨らんでいるため、(流通現金の大きな変動が今後もないという前提で言えば)マネタリーベースの前年同月比で一定の数字以上の増加率を維持するには、日銀当座預金残高の増加ペースを徐々に加速していく必要がある。しかしそれは、金融緩和のさらなる長期化を可能にするため長期国債買い入れを中核とする資金供給手段の持続性を高める必要性からすれば、基本的には無理のある話である。

 また、日銀はマネタリーベースの伸び率について、節目となる何らかの数字を提示しているわけではない。16年9月の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」導入に際して公表された「総括的な検証」を見ると、次のくだりがある。マネタリーベースの拡大に関して日銀が重視しているのは短期的な変動ではなく、あくまでも「長期的な増加」であることが確認される。

 「マネタリーベースの拡大は、『物価安定の目標』に対するコミットメントや国債買入れとあわせて、金融政策レジームの変化をもたらすことにより、人々の物価観に働きかけ、予想物価上昇率の押し上げに寄与したと考えられる。一方、マネタリーベースと予想物価上昇率は、短期的というよりも、長期的な関係を持つものと考えられる。したがって、マネタリーベースの長期的な増加へのコミットメントが重要である」「マネタリーベースについては、長期的な増加にコミットすることが重要である」。

円売り材料の「ソロスチャート」

 したがって、日銀当座預金残高の伸びが止まり、マネタリーベースの伸びが流通現金に依存している状態になっても、日銀政策委員の多くがそれをことさら問題視するとは思えない。

 さらに言えば、為替市場が以前に材料視していたことがあった日米マネタリーベースの伸び率格差(いわゆる「ソロスチャート」)は、FRB(米連邦準備理事会)がバランスシート縮小を続けておりマネタリーベースの伸びがマイナスである一方、ペースは落ちても日銀の場合はプラスの伸びとなっている結果、「ソロスチャート」の状況は足元では、市場で仮に使われるとすれば円売りの材料という状態になっている<図3>。日銀が供給しているマネタリーベースの伸びの方が高いので、その価値(円の為替相場)は減価しやすいという理屈である。

■図3:日米マネタリーベース伸び率格差(前年同月比;日本-米国)とドル/円相場(東京市場・月末)
注:日米ともに準備率調整なしの原数値で計算
(出所)日銀およびFRB資料より筆者作成

 1月16日に日銀がオファーした国庫短期証券買い入れの金額が、前週比横ばいの1000億円や、市場で予想が多かった2500億円ではなく、5000億円まで急増したことから、日銀がマネタリーベースの伸び率を落とさないように金融市場調節で配慮し始めたのではないかといった思惑が市場の一部で出ている。だが、筆者はそうした見方を少なくとも現時点ではとっていない。

 さて、円高が100円を目指して進む場合にあらためて問われることになるのが、「株安ではなく円高を阻止できる追加緩和策を日銀は打ち出すことができるのか」という重大な疑問への回答である。

 株価の急落に対しては、昨年7月に決まった金融緩和策の修正で明示的に可能になったETF(指数連動型上場投資信託)買い入れの柔軟運用(短期間に集中的な買い入れを実施できる)によって、需給の面から対応することができる。