2019年1月4日、米経済学会で議論するパウエルFRB(連邦準備理事会)議長(写真=ロイター/アフロ)
2019年1月4日、米経済学会で議論するパウエルFRB(連邦準備理事会)議長(写真=ロイター/アフロ)

 トランプ大統領からの昨年の「クリスマスプレゼント」は、一部連邦政府機関の閉鎖と、パウエルFRB(連邦準備理事会)議長解任論だった。

 1月3日に招集された、中間選挙で決まった新勢力分野の米議会は、野党民主党が下院で過半数を占める「ねじれ」状態である。このため、メキシコとの国境に「壁」を建設するというトランプ大統領の選挙公約に沿った予算が認められるためのハードルは、非常に高くなっている。そうなる前になんとかしようとするクリスマス前のトランプ大統領の焦りが、内務省や国土安全保障省など一部連邦政府機関の閉鎖(シャットダウン)につながった。

 上院が昨年12月19日に「壁」の建設費を含まない予算案を可決したものの、大統領はこれを拒否。下院が20日に57億ドルの「壁」建設費を盛り込んだ予算案を可決したが、上院を通る見込みが立たないまま、連邦政府全体の25%程度の予算が22日に失効して、シャットダウンに突入した。商務省が経済統計(11月の新築住宅販売)の発表を延期するなど、筆者を含むエコノミストの業務にも影響が及んでいる。

トランプ大統領によるパウエルFRB議長解任?

 シューマー民主党上院院内総務は「政府機関閉鎖の解除を望むなら壁(の予算計上)をあきらめるべきだ」と述べて、トランプ大統領を批判。そのトランプ大統領は「メキシコ国境での(不法移民流入という)危機は、立派な鉄柵か壁が建設されるまで終わらない」とツイートして反論した。事態の打開がないまま、シャットダウンは越年している。

 昨年12月のFOMC(連邦公開市場委員会)で追加利上げが決まった後の米国株の大幅下落や米景気悪化の可能性増大について、それらが再選をもくろむ2020年の大統領選に向けた強い逆風になることを、トランプ大統領は強く警戒しているようである。ナスダック総合指数は12月21日に高値から20%超下落して「弱気相場」入りし、景気先行指数に採用されているS&P500種株価指数も24日には「弱気相場」入り寸前まで急落した。

 そうした中、12月21日に米通信社ブルームバーグが報じて大きな話題になったのが、パウエルFRB議長の解任をトランプ大統領がホワイトハウス内で議論しているという話である。大統領の周辺はそうした動きを止めようとしているようだが、独断専行型の大統領だけに、今後の展開には見えにくい面がある。

 上記を含む関連報道によると、大統領によるFRB議長の解任について明確な法律上の規定や慣行・前例はない。法的にはFRB理事を「正当な理由があれば(for cause)」大統領が解任できると規定されているのみである。パウエルFRB議長はFRB理事でもあるので、理事の地位を「正当な理由」ゆえに失えば、FRB議長として続投するのは現実問題として困難だと考えられる。もっとも、政策方針の違いは「正当な理由」にはならないようであり、1930年代にルーズベルト大統領(当時)が連邦取引委員会(FTC)委員長を政策方針の違いを理由に解任した事例では、最高裁で無効の決定が下されたという。

 もう1つ、トランプ大統領がパウエル理事のFRB議長への指名を撤回して、(現実にはあっさりそうなるとは思えないが)共和党が過半数を占める上院がそれを承認するケースも想定することができる。この場合、パウエル氏はFRB理事の地位は引き続き保持しているので、FOMCで議長に選出されて政策運営をリードし続けることが可能である。別のFRB議長が大統領に指名されて上院がこれを承認する場合には、米国の中央銀行が「2トップ」になってしまい、ガバナンスの問題が生じかねない。