日本マクドナルドホールディングス (以下、マクドナルド)の業績の回復が急ピッチです。2018年12月期決算を見ると、売上高は前期比7.3%増の2722億円、営業利益は前期比32.4%増の250億4500万円。その前年である2017年12月期の営業利益もその前の期に比べて172.9%の増加ですから、急激に業績を回復していると言ってよいでしょう。また、営業利益率は9.2%と高く、これも前年の7.5%から改善しています。
マクドナルドは、2014年12月期には67億円の営業赤字、15年には252億円の営業赤字を計上していました。売上高も2014年が前期比▲14.6%の2223億円、2015年が1894億円と惨たんたる状況でした。これは、中国・上海で起きたマクドナルドには非のない使用期限切れ鶏肉問題に加え、異物混入問題への対応の不備などが原因です。
その後、マクドナルドは店舗や商品のリニューアルに積極的に取り組み、業績を急速に回復させました。筆者は、その要因は、しんどい時期の種まきにあったと考えています。そのあたりが財務諸表から読み取れるのです。しんどい時期の財務諸表と現在の財務諸表を見比べながら、マクドナルドの改善ぶりを解説していきましょう。
営業赤字に陥るなか短期50億、長期180億円の資金を調達
まず、2015年の損益計算書をご覧ください。売上高は先ほど述べたように1894億円です。直営店舗の売上高とフランチャイズ店からの収入がそれぞれ載っています。2014年の決算と比較すると、いずれも大幅ダウン。やはり、「事件」が起こると客離れが深刻になります。
2015年の損益計算書で注意して見なければならないのは、売上原価です。売上原価の数字は、売上高とほぼ同じですね。つまり、商品を店舗で販売している時点で、ほとんど利益が出ていなかったということです。とても厳しい状況でした。そこに販管費が上乗せされますから、営業損益は252億円という大幅な赤字に陥ったのです。
さらに、特別損失の項目を見ると、2014年には「上海福喜問題関連損失」が計上されています。2015年には、店舗などが想定した利益を生まない場合に計上する「減損損失」が計上され、最終的な利益を表す当期純利益(損失)は347億と大きな損失となりました。
当時の貸借対照表からも苦悩が読み取れます。赤字が続くわけですから、現預金は2015年に203億円まで減少。マクドナルドくらいの規模の会社なら、月商の1カ月分(当時の月商は158億円)くらいあれば問題はありませんが、結構そのレベルを下げています。
もちろん、それまで保有していた現金だけではこのレベルを維持できませんから、2014年から15年にかけて借り入れを大きく膨らませています。2015年末には短期借入金50億円、長期借入金181億と一気に有利子負債を増やしました。(それに1年内返済予定の長期借入金が25億円あります)。借り入れにより必要なキャッシュ(現預金)を確保したということです。それまでは長期借入金が5億円あっただけです。おそらく、以前支援してくれた金融機関への義理で借りていたのでしょう。
そういう厳しい業績の中でも金融機関からの借り入れがある程度スムーズにできたのは、それまでの財務内容が抜群で、中長期的な財務安定性を表す自己資本比率が格段に高かったからです。しかし、その自己資本比率も2015年1年だけで17.6ポイント下がって60.9%となりました。
減価償却費を大きく上回る投資を断行
一方、こうした厳しい状況の中でも必要な投資を続けていたことがキャッシュ・フロー計算書から読み取れます。キャッシュ・フロー計算書の中で、企業の投資の状況を表す「投資キャッシュ・フロー」の項目を見てください。「有形固定資産の取得による支出」が、主に設備投資を表しています。
この金額が多いか少ないかを判断する基準として、筆者は営業キャッシュ・フローにある「減価償却費」と比べます。これは、既存の設備などの価値の目減りを示します。普通は、この減価償却費分と同規模の再投資をしないと、既存ビジネスを維持するのが難しくなります。しかし、業績がしんどくなると、その再投資がおぼつかなくなることが少なくありません。
マクドナルドは、しんどい時期でも減価償却費を大きく上回る投資をしていたのが分かります。これが復活への伏線だったと筆者は考えるのです。通常の営業活動から稼ぐ「営業キャッシュ・フロー」は利益が大きくマイナスのためマイナスです。さきに説明したように、手持ちの現預金を取り崩し、さらには借り入れを行うことで、この資金を賄ったのです。
そして、冒頭で述べたように、ここにきて業績の回復を成し遂げました。そのことは、損益計算書だけでなく、貸借対照表やキャッシュ・フロー計算書を見ても復活の様子がうかがえます。
現預金は2018年末で433億円。月商は約226億円ですから、1.9か月分と十分な水準です。
負債の部を見ると、「長期借入金」の残高が2014年末と同額の5億円まで減少しています。借入金の観点からも正常モードに戻ったと言えます。「1年内返済予定の長期借入金」が106億円計上されていますが、これは今期中に返済する予定です。
また、自己資本比率も69.4%まで回復しました。利益が十分に出るようになっていますから、「営業キャッシュ・フロー」も348億円稼げるまでに回復しています。「キャッシュ・フローマージン」という指標があります。営業キャッシュ・フローを売上高で割った比率です。この指標が12.8%と非常に良い値となっています。筆者は7%が合格水準だと考えています。
「有形固定資産の取得による支出」も減価償却費を上回る水準を続けていますから、将来に対する投資も十分に続けていると言えるでしょう。
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