「結果にコミットする」とのスローガンと、芸能人の衝撃的な痩身ビフォー&アフターの姿が登場するコマーシャルで、大きな注目を集めたRIZAPグループ。パーソナルコーチによるマンツーマンの指導で大人気となりました。しかし、2019年3月期の連結業績予想を下方修正。営業損益が230億円の黒字から33億円の赤字に転落すると明らかにしました。
急成長を続けていたと思われていたRIZAPの業績が急伸、そして悪化した原因は、「M&A経営」とその会計処理にありました。今回は、1月25日にグループ再編の第一歩を踏み出した同社の現状と先行きを分析します。
「結果にコミットする」とのスローガンで大きな注目を集めたが……(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
「負ののれん」が利益をかさ上げ
最新の決算である2019年3月期の第2四半期(以下、19年3月期)から過去3年分の業績の推移を見てください。
売上収益(売上高)は大きく伸びています。17年3月期は前年同期比61.6%増の415億円。18年3月期は同50.8%増の625億円。19年は74.3%増の1091億円となっています。
ここだけを見ると絶好調のように見えますが、営業利益は急速に悪化しました。17年3月期は、同325.5%増の63億円の黒字を計上しましたが、18年は同22.0%減の49億円。そして19年は88億円の赤字に転落しています。
売り上げは伸びているのに、利益は急減している。この原因は何でしょうか。最も大きな理由は「積極的なM&A」でした。RIZAPは特にここ1~2年、急ピッチでM&Aを進め、傘下の会社を増やしてきたのです。本業とは離れた、サンケイリビング新聞社、ぱど、メガソーラー事業なども買収の対象にしました。
買収した企業の中に業績の振るわない企業も少なからずありました。1年ほど前に買収したシャンプーなどを販売するジャパンゲートウェイは4~9月期だけで20億円の赤字を計上。RIZAPは同社の売却を決め、19年3月期に8億円の売却損を計上する見込みです。
それでも、昨年まで黒字を維持できたのはなぜでしょうか。
答えは、「負ののれん」です。「のれん」とは、会社を買収した際に生じる勘定科目で、買収額と、買収された企業の純資産額との差額を計上します。会社の帳簿上の価値は純資産額(資産から負債を引いた額)です。これを上回る金額で企業を買った場合、差額は「のれん」として貸借対照表の資産の部に計上し、償却あるいは、場合によっては減損する必要があります。
日本基準の会計基準を使っている企業の場合は20年以内の償却、米国基準やIFRSを使っている場合には、被買収企業が思った収益を出さない場合に減損する必要があるのです。逆に、純資産額より低い金額で買収した場合は、「負ののれん」が発生し、その差額が利益となります。
RIZAPは、この「負ののれん」を営業利益に計上していました。さらに言えば、利益の多くを負ののれんが占めていました。これは、会計上認められるもので、不正会計ではありません。ただし、RIZAPの場合は大きな問題がありました。また、「負ののれん」が発生する会社は、一般的には業績の悪い会社です。元々、将来の業績不安を内包していたと言えます。
RIZAPは業績予想を立てる時も、負ののれんを営業利益の中に含めていたと推測されます。つまり、純資産よりも安い金額でM&Aすることを前提にしていた。こうしたやり方は一般的にはありません。よほど高い確率で安く買える候補企業が多くある場合は別ですが、それはなかなか難しい。
これまで、外部ではなかなかこの状況に気付いていませんでした。かなり業績が伸びていると思われていた。しかし、実際には、負ののれんが利益をかさ上げしていたわけです。
おそらく監査法人などに「負ののれんを営業利益に計上すべきではない」と指摘されたのでしょう。こうして、2019年3月期の第2四半期の営業損益は、88億円の赤字となりました。
そもそも、業績が振るわない会社を買収してきたわけですから、負ののれんを利益に含めなければ、赤字がどんどん膨らむはずでした。
意外にも「RIZAP」を含む主力事業部門も赤字だった
RIZAPの決算を検証していて、極めて意外だった点がありました。事業ごとの収益をまとめたセグメント情報を見てください。
■RIZAPグループのセグメント情報(単位:百万円)
2017年4月1日から9月30日までの状況を見ると、どの事業も利益を出していました。主力であるパーソナルトレーニングジム「RIZAP」は、「美容・ヘルスケア」に含まれています。
ところが、翌年2018年4月1日から9月30日を見ると、
セグメント損益は、どの事業も赤字になっています。
私は、主力部門だけは利益を上げていると思っていました。あれだけ注目され、芸能人も多数利用しているという話を聞いていましたから。
ところが、実際は「美容・ヘルスケア」も19億円の赤字です。「RIZAP」そのものは黒字かどうかは不明ですが、いずれにしても、主力部門が赤字に陥っているのです*。本業が悪化しているとなると、このまま回復に向かうのかは難しいところです。ただ、痩身に対する需要は大きいでしょうから、回復の可能性がないわけではありません。私の周囲でも、RIZAPに入会した人が結構います。
*=同社はRIZAP事業の利益の額を公表していないが、広報は「黒字」と説明している
すぐに経営危機に陥ることはない
では、RIZAPはこのまま経営危機に陥ってしまうのでしょうか。安全性を見ていきましょう。
財務内容を見る限り、すぐさま経営危機に陥ることはないと私は考えています。
企業の安全性を見る上で最も優先すべきは、短期的な安全性を示す「手元流動性」です。企業は流動負債を返済できなくなると倒産します。その返済のためのお金がいくらあるのかを端的に表しているのが「手元流動性=(現預金+流動資産の有価証券)÷月商」です。
19年3月期の「現金及び現金同等物」は572億円。これは月間売上高の3.14カ月分に相当します。手元流動性は、大企業の場合は1カ月分、中堅企業だと1.2カ月分、中小企業の場合は1.7カ月分あれば、まず大丈夫です。RIZAPは3.14カ月分の流動性を保持しているので十分な水準です。
次に、「流動比率=流動資産÷流動負債」を計算しましょう。こちらも短期的な安全性を示す指標です。値は164%。この値は120%を超えていると一般的に安全と判断されます。RIZAPの場合は、こちらも安全水域です。短期的には問題はないと言えます。
ただし、お金の調達方法には注意が必要です。
貸借対照表の「資本の部」をみると、2018年3月末の資本金は14億円、資本剰余金は54億円。これが2018年9月末には、それぞれ192億円、234億円となっています。
資本金が大幅に増えている理由は増資です。キャッシュ・フロー計算書の「財務活動によるキャッシュ・フロー」をみると、「株式の発行による収入」を354億円計上しています。
ただし、利益の蓄積である「利益剰余金」は、18年3月末の213億円が18年9月末には104億円まで減少しています。純損失が出た分、減っているのです。
つまり、増資をして現預金を増やしたわけですが、このまま赤字が続くと厳しい状況に陥る可能性があります。
銀行のスタンスはどうでしょうか。銀行は、融資先が経営危機に陥って危ないと判断した場合、まずは、長期貸付を減らして短期貸付を増やします。RIZAPの長期での有利子負債残高は18年9月末で408億円。3月末から23億円ほどは減少していますが、銀行は今のところ、それほどスタンスを変えていないのではないかという印象を受けます。
もちろん、銀行の姿勢は今後の業績によって大きく変わる可能性があります。19年3月期第3四半期以降の決算発表では、収益と資金繰りの動向を注意して見る必要があります。19年3月の予想を実現するには、下半期で50億円ほど営業利益の積み増しが必要です。今後の業績と事業再編に注目です。
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