(写真:Shutterstock)
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 満額、満額、満額! が連呼された今年の春闘。
 スズキ、満額回答は2013年以来、10年ぶり!
 ダイハツ工業、満額回答は06年以来、17年ぶり!
 三菱電機、満額回答は記録が残る1974年以降、初めて!
 三菱重工業、川崎重工業、IHI、74年以来、49年ぶり!  etc.,etc.……。

 生中継する記者さんは高揚気味に「満額!」を連呼する一方、スタジオでは「リスキリング(学び直し)とセットじゃなきゃダメ」だの、「中小企業に波及するかが鍵」だのとシビアな意見が相次いだ。
 どの報道番組も似たような構成で、中継→スタジオの後に流れるVTRには、「原材料費や光熱費が高騰」「価格転嫁できない」「従業員の生活と家族をなんとか守らなきゃ」「なんとかせねば!」という中小企業の社長さんが映し出された。

選挙公約を投げ捨て、TPP交渉への参加表明

 中には、「原材料費・光熱費の高騰、従業員の賃金を上げるどころか会社を存続させるのも厳しい」と、廃業を決めたことを涙ぐみながら話す社長さんもいた。とてもとても苦しみ、今も苦しみ、その苦しみと苦労が一つ残らず、社長さんのしわになってるように見えた。

 これは……いつか見た景色だ。はて、いったいいつだっただろう?
 なんてことを思いながら、自分のメモをパラパラめくってみたところ、はいはい、ありました!

 ちょうど10年前の2013年4月、関西電力が企業向けの電気料金を2割近く値上げしたことに伴い、工場の運営が難しくなったとして、京都府内の野菜工場が同日から休業に追い込まれ話題になった。
 この工場の電気代は値上げ前までは年間およそ900万円。ところが値上げで、年間の電気代が「1090万円余りになる」と予想された。

 「これ以上の節電は厳しい。かといって値上げ分を価格に転嫁できない」

 社長さんは休業を決断。従業員6人は全員解雇された。

 このニュースを伝える報道番組に映し出された、社長さんのやりきれない表情と、くだんの社長さんの表情は同じだった。

 当時、社会の関心はもっぱら「TPP(環太平洋経済連携協定)交渉に参加するか否か」だった。
 自由民主党は12年の総選挙で「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。」というポスターまで張り出し、「聖域なき関税撤廃」を前提としたTPPの交渉参加に反対するとしていたのに、安倍晋三首相(当時)はその選挙公約を投げ捨て、13年3月15日にはTPP交渉への参加を表明した。
 テレビの討論番組や新聞、ワイドショーとありとあらゆるメディアに、賛成派と反対派が連日連夜出演し、まったくかみ合わない議論が繰り広げられたことは覚えている人も多いと思う。