だが、生活に余裕がない家庭の親たちは仕事に忙しくて、子供と向き合う時間もない。子供が頑張って宿題をやっているときに、一緒に頑張ってあげることも、テストでいい点を取って「頑張ったね!」と褒めてあげる機会も制限されてしまいがちだ。

 貧困という経済的な問題が、子供との関わり方にまで波及し、貧しさは、将来の展望、教育や励まし、時間や愛情など、多くのリソースの欠乏につながっていく。

日本の最低賃金の低さ、円安で深刻化

 幼少期に低所得の家庭で育った人は、そうでない場合に比べ、大学卒業の確率が約20%低く、成人後に貧困状態に陥る確率が約4%高くなり、成人後に幸福だと感じる確率は約9%低くなり、健康だと感じる確率は約12%低くなるという分析結果や、成人期に低所得を脱しても死亡リスクが最大2.3倍高くなるなど、成人期の幸福感や健康にまで影響を及ぼすことも分かっている(Child poverty as a determinant of life outcomes: Evidence from nationwide surveys in Japan/Takashi Oshio, Shinpei Sano & Miki Kobayashi)。

 貧しさとは金の問題であって金だけの問題ではない。
 むろん、貧困家庭は、必ずひとり親家庭というわけではないし、女性だけの問題でもない。

 先進国が相対的貧困を貧しさの指標にする狙いは、「見えない貧困」を可視化することにある。貧困の背後に隠された低賃金などの労働要因、ひとり親世帯や高齢者世帯などの家族要因、病気などの医療要因、低学歴などの教育要因を突き詰めれば、社会保障も含めた政策の手立てになる。

 しかし、女性の非正規雇用率の高さ、女性の賃金の低さ問題はずっと指摘され続けているのに、一時的な支援が行われるだけで根本的な解決には至っていない。「米買えない? 嘘つき!」というバッシングにしても、それに喜ぶのは政治家だけだ。

 数年前、NHKが「貧困女子高生」のニュースを報じたときもそうだった。
 母子家庭の女子高生が、家が低所得のために専門学校への進学費用である約50万円を捻出できず進学を諦め、家にクーラーがない、パソコンがない、と窮状を報じたところ、部屋にアニメグッズがあっただのなんだの、女子高生のツイッターアカウントに「1000円のランチに行ってる」「ライブに行ってる」などと書き込みが集まり大炎上。そこに便乗したのが政治家だった。「ランチ節約すれば中古のパソコンは十分買えるでしょうから」と。

 いずれにせよ、既に世界で突出したレベルだった日本の最低賃金の低さは、円安でさらに深刻化している。世界経済フォーラムによると、日本の全国平均時給はわずか約961円なのに対しルクセンブルク約2353円、オーストラリア約2009円、ドイツ約1759円、英国約1610円、米国約2220円と、一桁違う(World Economic Forum「最低賃金が最も高いOECD加盟国は?」)。

 貧しさの恥ずかしさを倍加させるのが、世間のバッシングであり、それがSOSを出せない人たちを量産する。……そんなことも想像できないのだろうか。悲しい。

コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)

本コラムに大幅加筆のうえ新書化した河合薫氏の著書は、おかげさまで発売から1年以上たっても読まれ続けています。新型コロナ禍で噴出した問題の根っこにある、「昭和おじさん型社会」とは?

・「働かないおじさん」問題、大手“下層”社員が生んだ悲劇
・「自己責任」論の広がりと置き去りにされる社会的弱者……
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そしてコロナ後に起こるであろう大きな社会変化とは?

未読のかたは、ぜひ、お手に取ってみてください。

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12/15ウェビナー開催、「外食を救うのは誰か」第1回――すかいらーく創業者の横川氏が登壇

 新型コロナウイルスの感染拡大から3年目となり、外食店に客足が戻りつつあります。一方、大手チェーンが相次ぎ店舗閉鎖を決定するなど、外食産業の苦境に終わりは見えません。どうすれば活気を取り戻せるのか、幅広い取材を通じて課題を解剖したのが、書籍『外食を救うのは誰か』です。
 日経ビジネスLIVEでは書籍発行に連動したウェビナーシリーズを開催します。第1回目は12月15日(木)19:00~20:00、「『安売りが外食苦境の根源だ』ファミレスをつくった男が激白」がテーマです。講師として登壇するのは1970年にファミリーレストラン「すかいらーく」1号店を開業した横川竟氏と、外食経営雑誌『フードビズ』の神山泉主幹です。書籍を執筆した記者の鷲尾龍一がモデレーターとなり、視聴者の皆様からの質問もお受けします。ぜひ、議論にご参加ください。

■日程:12月15日(木)19:00~20:00(予定)
■テーマ:「安売りが外食苦境の根源だ」ファミレスをつくった男が激白
■講師:横川竟氏(すかいらーく創業者、高倉町珈琲会長)、神山泉氏(外食経営雑誌『フードビズ』主幹)
■モデレーター:鷲尾龍一(日経ビジネス記者)
■会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(原則ライブ配信)
■主催:日経ビジネス
■受講料:日経ビジネス電子版の有料会員のみ無料となります(いずれも事前登録制、先着順)。有料会員以外は3300円(税込み)となります。
※第2回は詳細が決まり次第ご案内します。

>>詳細・申し込みはリンク先の記事をご覧ください。