健康社会学者の河合薫氏が、NHK「みんなで筋肉体操」の講師としても知られる順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科先任准教授の谷本道哉氏をゲストに迎えたオンライン対談「筋肉は『超高齢日本』を救えるか?」の再録・第2回をお届けします。記事の最終ページでは対談動画をご覧いただけます。

※本記事は、対談の模様を編集してまとめたものです。

河合薫氏(以下、河合):筋肉の適応能力が高いとは、どういうことなのでしょうか?

谷本道哉氏(以下、谷本):運動器(骨、関節、筋肉、靱帯、神経などの総称)はどんな環境で過ごすかで、受ける負荷が大きく変わります。めちゃくちゃ運動すれば、ものすごく負荷がかかるし、ごろごろしていれば全然負荷はかかりません。ですので、何歳からでも鍛えれば筋肉がつくし、逆に体をギプスで固定したような状態だと、ものすごい勢いで落ちる。これが適応能力です。

自転車通勤は、持久運動になる

河合:私は、子供のときに足を骨折して、つま先から太ももまでギプスを3カ月間したことがあります。ギプスを取ったときには、足がふわーっと浮いちゃって……。ドクターに「筋肉が落ちたからだよ」って言われたことを思い出しました。すぐ元に戻りましたけど。

谷本:それも適応能力ですね。年を取った場合も同じです。筋肉は落ちても、適応能力は高いまま維持されます。ですのでしっかり鍛えれば幾つになっても筋肉はつきます。「もう年だから」といって筋肉を鍛えないなんて、もったいないです。

河合:確かに、もったいない。ですが、ついさぼっちゃうのですよね。そういえば、ウェビナーを開始する前にオンラインで打ち合わせをしたとき、自転車をこぎながら参加されましたね。いつも自転車で移動しているのですか。

谷本:ほとんど自転車です。打ち合わせが始まるまでには、自宅に着いているはずだったのですが、自転車からのログインになり、失礼しました(笑)。

河合:自転車をこぐことは、太ももやお尻の筋トレになりますか。

谷本:ええ、なります。僕の勤務先の順天堂大学は、通勤ルートの最後が坂になっているので、そこで猛烈にこぐ。これが、ルーティンとしてやっている筋トレの1つになっています。それから、動脈血管系機能の維持向上には有酸素運動が大切ですが、自転車通勤のおかげで有酸素運動も継続的にできています。

河合:継続的にって、どのようにしているのですか?

谷本:自転車を使わないと通勤ができない場所に家を買いました。

河合:なるほど。めっちゃ、理に適(かな)っています。新型コロナウイルス禍で自転車通勤をする人が増えましたが、筋トレにも有酸素運動にもなる、ものすごく健康的な通勤スタイルってことですね。

谷本:自転車はすごくいいですね。ジョギングもいいですが、(衝撃が強い)ハイインパクトな運動なので関節が消耗します。その点、自転車は関節に優しい。着地の衝撃がないので、運動の強度を高くして、心肺機能に負荷がかかっても、楽に感じます。自転車通勤をしているだけで、結構な持久運動になります。交通安全には気を付けて、どんどんやっていただきたい。

谷本道哉氏 順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科先任准教授
谷本道哉氏 順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科先任准教授
1972年生まれ、静岡県出身。大阪大学工学部卒。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。国立健康・栄養研究所 特別研究員、東京大学学術研究員、順天堂大学博士研究員、近畿大学講師を経て現職。専門は筋生理学、身体運動科学。NHK「みんなで筋肉体操」などでも運動の効果を解説。

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