健康社会学者の河合薫氏が、NHK「みんなで筋肉体操」の講師としても知られる順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科先任准教授の谷本道哉氏をゲストに迎えたオンライン対談「筋肉は『超高齢日本』を救えるか?」の再録・第1回をお届けします。記事の最終ページでは対談動画をご覧いただけます。

※本記事は、対談の模様を編集してまとめたものです。

河合薫氏(以下、河合):谷本道哉先生の「筋肉は裏切らない」という言葉が大好きで、色々な場面で使っています。例えば「日々の仕事も積み重ねが大事! きちんと丁寧にやっていれば、裏切られない!」などと、自分を励ますこともあります。ですので、一度谷本先生のお話を色々と伺いたいなと思っていました。

谷本道哉氏(以下、谷本):ありがとうございます。筋肉は裏切らないというフレーズは、「(トレーニングなどを)やった分は、自分の身になるよ」という意味に取られがちですが、僕はちょっと違う解釈、意味付けをしています。「筋肉は裏切らない」は上の句で、下の句は「(裏切らない)かどうかはやり方次第です」と。

筋肉があることがかっこいい時代に

河合:なるほど。正しい努力をしないとだめということですね。

谷本:そうです。もちろん、運動の指導をする立場にある僕が、まず適切な方法を提案しなければならない。そして皆さんには、それに従って正しい運動をしていただく必要がある。

 実は、この(筋肉は裏切らないという)フレーズを考えたのはテレビ局のディレクターさんなのです。「なかなか重い言葉を与えられたな」と思いながら、皆さんにお伝えしています。

河合:さすがNHK! 頭脳派ですね(笑)。先生は大阪大学工学部を卒業されて、その後、大手建設会社に勤務なさっていましたが、どうして“筋肉の先生”になったのですか? 耳にたこができるほど聞かれているとは思いますが……。

谷本:本当は大学で筋肉を研究したかったのですが、僕らの時代は、運動生理学的なことをメーンとしている学部はほとんどなかった。また、物理や数学がもともと得意だったので、「地図に残るような(建築系の)仕事ができたらかっこいいな」という思いもあって、工学部に行きました。

 大学を卒業して働き始めた後ですが、東京大学大学院教授(当時、現名誉教授)で、ボディービルの日本選手権でチャンピオンになったこともある石井直方先生が登場している記事をたまたま見て、それがめちゃくちゃ面白かった。筋肉を生理学的な視点から詳しく解説されていましたし、記事には、話しているのは東京大学大学院の先生だと書いてあったので、「ああ、ここに行けば、筋肉のことを学べるんだ」と思い、仕事を辞めて、東大の大学院に進学しました。

河合:なるほど。実はこの対談には、テーマとなる1つのキーワードがあります。「昭和おじさん」、あるいは「昭和おじさん社会」です。今回、谷本先生に対談をお願いしようと思ったときに、「あ、そうだ、昭和って(俳優の)アーノルド・シュワルツェネッガーが出てきたり、ボディービル大会とか、筋肉をつくる、筋肉があることがかっこいいと思う人が出てきたりした時代だったな」と。

 筋トレとかフィットネスブームも80年代だったように記憶しているのですが、先生が筋肉に興味を持ったのも、やはりこういった流れに影響されたんでしょうか?

谷本道哉氏<br>順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科先任准教授
谷本道哉氏
順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科先任准教授
1972年生まれ、静岡県出身。大阪大学工学部卒。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。国立健康・栄養研究所 特別研究員、東京大学学術研究員、順天堂大学博士研究員、近畿大学講師を経て現職。専門は筋生理学、身体運動科学。NHK「みんなで筋肉体操」などでも運動の効果を解説。

次ページ 筋トレの効果は細胞レベルで見るべきだ