ご承知の通り、2021年4月に施行された改正「高年齢者雇用安定法」により、70歳までを対象として、「定年制の廃止」「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入」「業務委託契約の導入」「社会貢献事業に従事できる制度の導入」のいずれかの措置を講じるように努めることを事業主は義務付けられた。
そこで厚労省が企業の“努力具合”を調べたところ、全体の4分の1に当たる25.6%(5万9377社)の企業が何らかの措置を実施したと回答(令和3年「高年齢者雇用状況等報告」、調査対象は従業員21人以上の企業23万2059社)。企業規模別にみると、大企業が17.8%だったのに対し、中小企業は26.2%で、社員が少ない企業ほど、何らかの措置を実施したところが多いことがわかった。
あそこの会社はうちの息子切った!
「“体力”のある大企業の方があれこれやってるんじゃないの?」と、この結果を意外に思う人もいるかもしれない。
しかし、講演会や取材などで全国津々浦々1000社以上を回っていると、元気な中小企業ほど、あの手この手で制度を充実させ、シニア雇用についても、いわゆる「50歳問題」が指摘される以前から、定年制を廃止していた。
なぜか?
答えは実にシンプル。それが最善の企業戦略だから、だ。
「うちみたいな中小が、50歳過ぎたら昇進できないなんてことしてたら、管理職が空席だらけになっちゃうでしょ」
「うちみたいな小さな会社が、50歳過ぎたら用無し、なんてことしたら、社員がいなくなっちゃいますよ」
「社員をリストラなんかしたら、『あそこの会社はうちの息子切った!』って大騒ぎになって大変だよ」
……etc.etc.
“うちの会社”の実態を、自嘲気味に、笑いながら話す社長さんたちに、何度も会った。
「すべての社員をイキイキと働かせることこそが、生産性を高める」という当たり前を、人的資源に限りある中小だからこそ実施していたのだ。
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