(写真:Shutterstock)
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 「シニアがシニアを教育するのは、とても難しい」――。

 再雇用組の教育係の男性が、こう嘆いていたことがある。

 ベテランシニアは、再雇用された新米シニアに「見下されないようにしなきゃ」と警戒するのだ、と。「年を取っていると思われたくない」「大したことないとなめられたくない」と恐れるあまり、自分がバカにされないように相手をバカにする。

切っても切っても増えるのがシニア社員

 それに耐え切れずに、メンタルを低下させたり、会社に来なくなったりする新米シニアがいるのだという。

 「ちっちゃなプライドの戦いなんですけどね……」
 男性は控えめに笑っていたけど、内心はあきれていたのだと思う。「いいかげんにせい!」と、自分よりちょっとばかり年上の“シニア社員”に活を入れたかったのだろう。

 先日、某大企業の方から相談を受けた。お悩みは「シニア社員の教育の難しさ」だ。
 じわじわと増え続ける50代の社員を“戦力化”するために、社員教育を実施してきた。ところが、あれこれ手を尽くしてもうまくいかない。

 「何のために、誰のために、70歳まで働ける制度にしたのか。シニア社員はわかってない」と頭を抱えていたのである。

 これまで私は、企業は「50歳以上を使うしかないのだ!」と、口が酸っぱくなるほど言い続けてきた。部下なし管理職にさえなれない万年ヒラの会社員が7割を超え、職場に舞い戻った定年後再雇用の人たちが“現場”にあふれているのだから、その社員を使わなかったら、うまくいかないに決まってるじゃないか、と。

 にもかかわらず、50歳を“用済み”とばかりに、斬り捨て御免! にする企業は後を絶たなかった。

 そんな中、件の男性の会社では「切っても切っても増えるのがシニア社員」という認識の下、数年前から企業戦略として、シニア教育を充実させてきた。少しずつ結果も出てきているけど、てこでも動かない社員が少なくないという。

 そこで今回は「50歳の壁」について、あれこれ考えてみようと思う。

 男性のお悩みの顛末(てんまつ)をお話しする前に、厚生労働省が、「70歳まで働ける会社制度」の実施状況を公表したので、そちらの結果を確認しておこう(厚生労働省 令和3年「高年齢者雇用状況等報告」)。

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