挙げ句の果てに、「残業月100時間未満」という、過労死を合法化するような制限まで加えたのだから、わけがわからない。
週50時間以上働くと労働生産性は下がり、63時間以上働くと仕事の成果も下がる、という米スタンフォード大学の研究結果もあるというのに、「人」を取り替えのきくロボットと盲信したのだ。

 「日本の生産性が低いのは、サービス業が多いから」と、産業構造の問題にする人もいるが、本当にそうなのだろうか。
 日本のサービス業が好んで使う、「おもてなし」という美しい言葉は、働く人たちの犠牲の上に成り立っていると、私は考えている。

米国は「働く人の健康」を大切にする国

 経営者は安い賃金で働く人たちを雇用することで「生産性を向上」させ、きちんとした教育も行うことなく、日本人の労働者の質の高さを(前掲「OECD国際成人力調査」)、利用した。「おもてなし」という美しい言葉に置き換えて。

 その上、「教育制度は“社員さんだけ“」を当たり前にした。
サービス業で爆増した「非正規」という雇用形態は、企業内訓練をスルーする格好の“言い訳”になってしまったのだ。

 日本の「人材育成投資額」のピークは、バブルが崩壊した直後の1991年。その後徐々に低下し、97年、98年の金融危機を経ると一層減少額が大きくなり、2015年の人材育成投資額は、ピーク時のわずか16%でしかない。

 企業内訓練が、正社員・非正社員を問わず働く人の生産性を向上させることは、いくつもの分析結果で確認されている。労働生産性が低い産業や企業ほど、訓練の効果が高いこともわかっている。
社員教育とは、「あなたに期待しています」というトップからのメッセージでもある。社員にそのメッセージが伝わってこそ、社員は期待に応えようとモチベーションを高め、自ら成長する努力をする。

 その大切な“メッセージ”すらケチった。実に残念なことだ。

 日本では何かにつけ、米国=世界とばかりに米国流を取り入れるが、米国は同時に「働く人の健康」を大切にする国でもある。
 欧米諸国では60年代後半から、企業で働く従業員が心身を病んでしまう状況が問題となり、ストレス研究が盛んに行われてきた。それらの結果を受け、米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が提唱したのが、「健康職場(Healthy Work Organization)モデル」。労働者の健康と満足感と、職場の生産性や業績には相互作用があり、互いに強化できるとする理論だ。

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