(写真:Shutterstock)
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 毎年この時期になると、大学の卒業式や入学式での学長などによる祝辞が話題になる。今年は4月12日の東京大学・学部入学式に来賓として参加した映画作家・河瀬直美さんのコメントが物議をかもしている。

 SNS(交流サイト)で流れてきた情報では、河瀬さんは「ロシアを悪者にすることは簡単」とした上で、「なぜこのようなことが起こってしまっているのか。一方的な側からの意見に左右されてものの本質を見誤ってはいないだろうか? 誤解を恐れずに言うと『悪』を存在させることで、私は安心していないだろうか」などと発言。
 これに対し、国際政治学者から批判の声が相次いだという。

先人たちの熱い思い

 私自身、この報道を知ったとき、危うさを感じた一人だ。
 一方で、なぜ、河瀬さんが大学での祝辞という場で、政治的な問題と『悪』とを結びつける発言をしたのか? がわからなかった。

 そこで、東京大学のホームページに掲載されている祝辞の全文を読んだ。

 すると、「なるほど、そういうことか」と理解できた。河瀬さんのメッセージを私なりに解釈すれば、何よりも「考える葦(あし)であり続けろ!」と学生たちに伝えたかったのであろう。
 と同時に、河瀬さんのコメントに、国際政治学者たちから批判が相次いだ理由もよくわかった。

 批判した学者の中でも、「社会においてあらゆる善悪の観念を取り払い、相対主義に陥るのは恐ろしいこと」と河瀬さんを批判した国際政治学者・細谷雄一慶応義塾大学教授の立ち位置は、極めて明確だった。
 一言で言えば、「平和な世界を築くために積み重ねた、先人たちの努力を踏みにじるな!」ってこと。先人たちの努力の結果は、国際規範や国際法として存在するのだぞ、と。これには大いに共感した。私自身、細谷教授と研究分野は違うけど、同様の主張をずっとしてきたからだ。先人たちの“熱い思い”があるからこそ「今」がある、と。過去、すなわち物事の原点を大切にして初めて輝かしい「未来」につながると、私は信じているのだ。

 そこで今回は、「先人たちの思い」をテーマに、「今の私たち」についてあれこれ考えてみる。

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