健康社会学者の河合薫氏とニホンザルやゴリラの研究で世界的に有名な総合地球環境学研究所所長の山極壽一氏のオンライン対談「昭和おじさん社会はサルにも劣るのか?」の第3回をお届けします。記事の最後のページでは対談動画をご覧いただけます。

※本記事は、対談の模様を編集してまとめたものです。

河合薫氏(以下、河合):集団のリーダーとなっているゴリラは、どういう事情でリーダーとして選ばれたのですか。人間には分からない、何らかの理由があるのですか。

山極壽一氏(以下、山極):ゴリラの場合、「リーダーになった途端、リーダーらしくなっていく」ということがあるんです。ゴリラは人間社会のような大きな集団のリーダーになるわけではなく、率いる集団は、いわば疑似的な家族です。だからリーダーらしくなるには、まずメスが自分をリーダーと認めて、自分の下にやってくること。それからメスが自分の子供を産んで、その子供に慕われるようになること。そういう状況になると、めきめきとリーダー的な素質を身に付けます。

河合:人間が子供を持つと、母親になる、父親になる、というのと似ていますね。

山極:面白いのは、体つきまで変わることです。リーダーになると背中にある白銀のような色の毛が目立つようになるし、地面に両腕を立てたときに、前腕部の毛が長くなって、それがばっと立ってかっこよく見えるようになる。また、後頭部が突出して、まるでヘルメットをかぶったような状態になる。そして、そもそも態度が全然変わってくるんです。

オスがいた方が都合がいい

河合:へ~、すごい! それは家族というか、家族の愛がリーダーの強さを生んでいく、育んでいくというようなことなのですか。他者の愛によって、自らがどんどん強くなるパワーを、ゴリラは秘めているみたいな。

山極:そうそう。僕がゴリラから学んだのは、父親というのは「自分は父親だ、自分はリーダーだ」なんて言っても、そうなれるものじゃないということです。そもそもパートナーから信頼され、子供から父親として慕ってもらって初めて父親らしい行動ができる。つまり父親とは周囲からつくられるものなんです。

河合:一方でサルは強いものが、けんかをしてボスになるというなら、昨年、大分市の高崎山自然動物園でメスのボスザルが誕生したのは、強いメスザルが出てきたから、ということですか。

山極:いや、違います。ニホンザルの集団は母系社会だから、メスは生涯、集団を離れません。おばあちゃん、お母さん、娘といった母系のつながりでメス同士が連合を組み、オスを放逐することもあります。一方で、オスがいてくれた方がいろいろと都合がいいこともある。だからメスは、オスが序列をつくるのを許しているのです。

 高崎山のケースは、どういう事情なのかは分かりませんが、ボスだったオスが煩わしくなったんじゃないですか。オス同士がけんかして、オスの力が弱くなると、メスの連合がオスの連合よりも上になることがあるので。

 それぞれの“家系”には「メス頭」がいるので、高崎山の場合も、そうしたメス頭がたまたまボスの役割を果たした、ということではないですか。

河合:じゃあ、今まではメスが結託して、オスを手のひらで転がしていたのに、「もう転がすのも面倒くさい。私がやった方が早いわ」と、ボスになっちゃったという感じですか。

山極:ニホンザルのメスは連合しますが、オスはほとんど連合しません。だからオスは一頭一頭の力によって、順位が決まる。多くのメスが味方をすれば、そのオスは自分の力を増すことができるので、ボスにもなれます。

河合:ということは、形は違うにせよ、男は結局、女に操られているということですか。

山極壽一氏 総合地球環境学研究所 所長
山極壽一氏 総合地球環境学研究所 所長
1952年東京生まれ。京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士課程単位取得退学。理学博士。日本モンキーセンター研究員、京都大学大学院理学研究科教授などを経て、2020年9月まで京都大学総長を務める。人類進化論専攻。京都大学名誉教授、環境省中央環境審議会委員を務める

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