同社が“介護対策”に乗り出したきっかけは、介護と仕事の両立支援を手掛けるリクシス(東京・港)が2020年秋に公表した調査結果だった。

 社員の1割弱が介護中で、約半数が3年以内に介護に直面する可能性があることが分かった。40~50代に限ればその割合は約6割にも上る。

心も体も疲弊する

 そこで同社は、「隠れ介護こそが最大の経営リスク」と判断し、若手を含む全社員に介護研修を徹底することにしたという。

 研修では、家族の介護がどの程度差し迫っているのかを、親の年齢や家族構成などの情報から診断。経済的・時間的な負担度などを可視化。その上で仕事との両立や家族との関係、介護費用などについて学ぶことで、突然の親の“変化”への備えを徹底した。

 私の記憶に間違いがなければ、国が公表する介護者にカウントされていない「隠れ介護」という言葉を、最初に世間に広めたのは日経ビジネスだった。

 8年前の2014年9月、「隠れ介護 1300万人の激震」という衝撃的な見出しの特集を展開し、就業者6357万人(総務省統計局の労働力調査)の実に5人に1人が、隠れ介護と報じたのだ。その多くは40代、50代の管理職で、経営者の中にも「隠れ介護」がいることが分かった。

 記事の内容は「明日は我が身か」と思わせる深刻なものだったが、自分自身が「隠れ介護」予備軍であるというホンキの危機感を抱いた人は、必ずしも多くなかったように思う。

 かくいう「私」もその一人だ。100歳まで生きると信じて疑わなかった父に“変化”が起きたのは、その半年後のことだった。しかも、自分が直面した問題を、当時の私は「プレ介護」という言葉で表現している。要するに、当時の私はどこからが介護で、どこまでが世話なのか、分からなかった。

 ヤングケアラーの中に「介護をしている」という自覚を持てない子供がいるように、ビジネスケアラーの中にも、「これを介護と呼んでいいものか?」と迷っている人も多いのではないか。

 いずれにせよ、プレ介護であれ、世話であれ、自覚があろうとなかろうと、親の存在に心が拘束され、親の変化と向き合うのは、物理的にも精神的にも容易じゃない。

 自分の時間がどんどん奪われ、それでも足りない時間は睡眠時間を削るしかなく、それでも逃げることも、辞めることもできず、心も体も疲弊し、孤立していくのだ。

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