(写真:Shutterstock)
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 今回は「踏ん張る経験」について、あれこれ考えてみようと思う。
 「おい! 随分と抽象的なテーマじゃないか」と思われるかもしれないけど、大きく言えば「50代の生き方問題」なので、最後までお付き合いいただきたい。

 先日、文部科学省科学技術・学術政策研究所第1調査研究グループによる「『博士人材追跡調査』―第4次報告書―」が公表された。

 これは、先進国の中で人口当たりの博士号取得者が最も少なく、「低学歴化」が進んでいると言われる、日本の現状を把握することで、「客観的根拠に基づく政策策定」に貢献することを目的に2014年から実施されているパネル調査だ。

第二の人生に惑う人たちへ

 調査対象者は、

  1. 2012年度に日本の大学院の博士課程を修了した者
  2. 2015年度に日本の大学院の博士課程を修了した者
  3. 2018年度に日本の大学院の博士課程を修了した者
の3つのグループがあり、それぞれを追跡調査している。

 今回の報告書は3つ目のグループ、「2018年度に日本の大学院の博士課程を修了した者」の1年半後を対象とする調査の結果だ。

 その結果は、「博士になっても稼げない現実」と「不透明なキャリアパス」という、かねて指摘されていた問題が、改めて確認されたものだった。が、その中にかすかな「光」を見た!

 それは、さまざまな“その場しのぎ的制度”が横行する日本で、そしてベテラン社員を厄介者扱いする企業が多い中で、「おじさん、おばさんも、踏ん張ろうぜ!」と思えるものだった。

 なんと! 「博士課程に在籍する前に社会人経験がある」と回答した者が初めて5割を超え、博士課程学生の年齢構成が、30歳代を中心とするものへと変化していたのである。

 個人的な話で申し訳ないのだが、私自身、30代で大学院に進学し、怒濤(どとう)の修士・博士課程を経て、今に至っている。当時、社会人入試制度は一般的じゃなかったし、私が進学した研究科には「社会人ルート」自体が存在しなかった。

 おそらくそういった事情も関係していたのだろう。私宛てに雑誌のインタビュー依頼が相次ぎ、その度に「今さら博士号を取って、どうする?」だの、「年下と一緒に扱われて、プライドが保てるの?」といった意味不明の質問をされた。

 しかし、一方で、私の脳内では「こんな妙な質問をされるのは、なんでやねん?!」と“脳内虎”が叫び、学問に深く関われば関わるほど、「社会人を経験しているほうが、いい研究ができる」と確信した。社会人として酸いも甘いもかみ分けてきた“大人”だからこその視点が、示唆ある研究につながるのだ。

 実際、私が所属した研究室は、大学の学部からストレートで進学した人のほうが稀(まれ)で、臨床経験者や、修士課程を途中休学し、社会人を経験してきた人のほうが多かった。

 であるからして、セカンドキャリアに惑う40代、50代の人たちにも、今回の報告書はぜひとも知ってもらいたい、と考えた次第だ。

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