(写真:Shutterstock)
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 「社長になって全社員の前で挨拶したときにね、『社員と社員の家族を、絶対に路頭に迷わせちゃいけない』って思ったんですよ。社員の顔を実際に見るまでは、自分がそれまで温めてきたことや会社が進めてきたことを、確実に進めていくことばかり考えていました。
 でも、壇上から社員一人ひとりの顔を見たら……ね。とにかく何があっても社員は守らにゃいかんのです」

 ある大手企業の社長さんと対談した際に、こう話してくれたことがある。
 この数日間、私の“脳内テレビ”には、この言葉がテロップの形で繰り返し流れている。そして、頭から離れなくなった。

頑張ったけどどうにもならない

 「社員と社員の家族を、絶対に路頭に迷わせない」という、シンプルかつ本質的なミッションを分かっている社長さんって、どれだけいるのだろうか。社長さんって、何のためにいるのか? 社長さんにとって、社員とは何なのだろうか。

 先週、東京・豊島区東池袋の公園で行われた炊き出しには長蛇の列ができた。
 450人余りが訪れ、若い世代や女性の姿も目立っていたという(NHKニュースより)。

 テレビの画面には、

  • 「シフトが減らされ月収は20万から16万前後。仕事があるだけまだましかもしれない」と、肩を落とす契約社員の30代の男性、
  • 「1回落ちたら、はい上がれないのが、今の時代」と嘆く、非正規で働いているという男性

 が、モザイクで映し出された。

 彼らの口調は、あっけないほど淡々としていた。「どうにかしようと散々頑張ったけど、どうにもならないよ」と、人生に絶望したかのようだった。

 朝の報道番組では、残業代が減り、住宅ローンが払えないため自宅を売却する人が増えている、中間層が没落している、低所得者層が困窮していると、繰り返し報じられていた。

 私の知人も、「家を手放す選択を余儀なくされた」と話した。といっても本人ではない。娘さん夫婦が、賃貸アパートの家賃が払えず、実家に出戻ってきたという。

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