ジェンダー問題しかり、最低賃金しかり、ハラスメントしかり……。どれもこれも「人の尊厳」という、ごく当たり前に守られるべき問題なのに、「人」がないがしろにされ続けている。

 繰り返すが、ハラスメントは人権侵害である。欧州ではハラスメントは人権侵害であるという認識が明確にあり、法律を整備することで、人々に浸透させてきた。

政府が気にする「ちっちゃな正義」

 例えば、スウェーデンでは、国立労働安全衛生委員会が1993年に「職場での虐待に関する規則」を制定し、モビング(=パワハラ)を「従業員に対して繰り返し行われる侮辱的な行為、見るからに悪質で非難すべき行為、それによって職場における共同体からその従業員がはじき出されてしまうような行為」と定義し、雇用者に対して法的に従業員をサポートするよう義務付けた。

 2002年にフランスで施行された「労使関係近代化法」では、企業内におけるモラルハラスメントを規制する条文を導入し、働く人の身体的健康だけでなく精神的健康も含めて健康・予防における使用者の責任を拡大した労働法改正が行われている。条文には「繰り返される行為」と「労働条件の劣化という結果」との2つの要件が組み込まれ、同時に刑法にも「1年の懲役及び1500ユーロの罰金」という刑罰が定められている。

 また、日本同様に「パワハラが多い」とされる韓国でも、2019年7月、改正労働基準法が施行され、職場でのいじめ行為の禁止が法制化された。ハラスメント対策が不十分な雇用主には、最長3年の禁錮刑や最高3000万ウォンの罰金が科せられる可能性があり、ハラスメントによって労働者に健康被害が生じた場合の賠償請求権も保障されている。

 そもそも人権とは、単に「相手を思いやるとか、相手の価値観を尊重する」ことでもなければ、差別をしないことでもない。
 「人権」は英語では、human rights。つまり、「すべての人が所有するいくつもの権利」だ。
 表現の自由、生存権、市民的・政治的な自由、生活を保障される権利、働く権利、教育を受ける権利、経済的・社会的・文化的権利、平和的生存権などなど、すべて「人権」である。

 2002年3月に策定された国の「人権教育・啓発に関する基本計画」でも、「人権とは、人間の尊厳に基づいて各人が持っている固有の権利であり、社会を構成するすべての人々が個人としての生存と自由を確保し、社会において幸福な生活を営むために欠かすことのできない権利である」(第3章―人権教育・啓発の基本的在り方 1.人権尊重の理念)と述べられている。

 これらの「社会において幸福な生活を営む」ための「権利と自由」の侵害がハラスメントであり、実現を阻むのが差別だ。その侵害と差別を、日本は「経済団体」をおもんぱかる、というちっちゃな正義のために許容しているのだ。

 世界はパワハラの根絶に動いているのに、そんなことやってると、世界は日本企業に投資しなくなるってことを、わかっているのだろうか。

コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)

本コラムに大幅加筆のうえ新書化した河合薫氏の著書は、おかげさまで発売から1年以上たっても読まれ続けています。新型コロナ禍で噴出した問題の根っこにある、「昭和おじさん型社会」とは?

・「働かないおじさん」問題、大手“下層”社員が生んだ悲劇
・「自己責任」論の広がりと置き去りにされる社会的弱者……
・この10年間の社会の矛盾は、どこから生まれているのか?
そしてコロナ後に起こるであろう大きな社会変化とは?

未読のかたは、ぜひ、お手に取ってみてください。 

この記事はシリーズ「河合薫の新・社会の輪 上司と部下の力学」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。

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