
「死にたくて死ぬ人はいません。死ぬしかないから、もう生きられないから、命を絶つという選択を余儀なくされるのです」
以前、自殺予防に長年携わってきた先生が、こう話してくれたことがある。
心が引き裂かれるような出来事をきっかけに、次々と苦しみの連鎖に陥っていく。次第に家族関係も悪化し、友人とも距離をおくようになり、「助けて!」とSOSを出す気力も失われていく……。
女性の自殺者が2年ぶりに増加
悲しいかな、新型コロナウイルス感染症はそんな“苦しみの連鎖”の引き金になった。
コロナはすべての人たちから平等に日常を奪ったが、その影響は平等ではなかった。コロナ以前は、私たちと同じ日常の中にいる“隣人”だった人たちが、「もう生きられない」と、この瞬間も声にならない叫び声を上げている。
- 「働く女性、自殺3割増 コロナ禍『非正規』影響か」
- 「追い詰められる働く女性 女性の自殺率15%増加 コロナで雇用悪化」
- 「働く女性の自殺増加 コロナで雇用環境悪化も」
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これらは、2021年11月2日に閣議決定された「自殺対策白書」を報じる新聞各紙の見出しだ。
2020年の1年間に自殺した人は2万1081人と前の年より912人多く、女性は935人増えて7026人と2年ぶりに増加。一方、男性の自殺者は前の年より23人減って1万4055人となり、11年連続で減少した。
職業別に見ると、「被雇用者・勤め人」が381人増(過去5年の平均と比較)。その内訳は「事務員」が最も多く、「その他のサービス職」「医療・保健従事者」と続いている。「働く女性の自殺増」の背景には、「非正規労働者の雇用環境の悪化」が影響したと、各紙報じた。
一方、内閣府の調査では、「働く女性」だけではなく「主婦」の自殺者も増えていると指摘。無職者、女子高生の増加が大きく、無職者の中では「主婦」が最も多かった(内閣府男女共同参画局「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会報告書 ~誰一人取り残さないポストコロナの社会へ~」)。
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