(写真:Shutterstock)
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 政府ネタを取り上げただけでバッシングを受けるので、スルーしたい気持ちは山々なのだが、今回はそれができないほどモヤモヤしている。「3391」という数字が頭から離れなくなっているのだ。

 3391人――。
 これは昨年4月27日時点で、新型コロナウイルスの影響から解雇や雇い止めにあった人の「数」だ(日本経済新聞2020年4月28日付「求人1.39倍、3年半ぶり低水準 解雇・雇い止め2000人増」、見込みを含んだ数字)。

どう生きたらいいのか

 当時、私がSNSで呼びかけた「フィールドワークのインタビューを、今こそやりたいのにできない状況なので、新型コロナウイルスの影響で、派遣切り、解雇、倒産、減給など、生活が立ち行かなくなった方、お知らせください!」というメッセージは、多くの人たちにシェアされ、たくさんの、本当にたくさんの人たちからSNSのメッセージやメールが届き、その深刻さに驚いた。

 そして、連絡をくれた一人ひとりのお話に耳を傾けているうちに、「3391という数字だけでは決して知り得ないストーリーがある」という当たり前に気づき、ショックを受けた。

 20年勤務したタクシー会社を突然解雇された男性は、介護をしていた父親が亡くなった直後だったので、葬式代やら納骨代やらで出費がかさみ、貯金は底をつき借金だけが残っていた。

 がんと闘いながら働いていた女性は、コロナで自宅待機を命じられ収入が途絶えた。「体を動かす仕事は難しいのですが、スーパーの品出しのバイトなら雇ってくれるところがありそうなので、背に腹は代えられず、思案中です」と、自分を奮い立たせるように話してくれた。

 また、脳梗塞で自宅療養となったが、やっと再雇用が決まり「頑張ろう!」と意気込んだ矢先にコロナ禍で契約切りにあった男性、障害者雇用で働く人、病弱な子どもを育てるシングルマザーなど、コロナ以前は、私たちと同じ日常の中にいた“隣人”たちが、突然「今月の家賃も払えない」「明日から、どうやって食べていこうか」という苦しい状況に置かれた。「明日どう生きたらいいのか」も分からなくなっていた。「3391」という数字が持つ重さにやるせない気持ちになった。

 しかも、彼らは皆、「自分と同じような立場の人の悲惨な状況を知ってもらえたら、それだけでうれしい」と語った。とにかく「人生が変わってしまった私のような人間がいることを知ってほしい」と、ご自身の状況を実に丁寧かつ冷静に語ってくれたのである。

続きを読む 2/5 首相会見への絶望

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