(写真:Shutterstock)
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 「最初の頃は、いつ切られるんだろう? と、そんなことばかり考えていました。でも、2年くらいたって、『やりたい!』と手を挙げれば、とことんサポートしてくれることが分かりました。『下位◯%はリストラ』とメール一本で通達が来るのは、いまだに慣れませんが。やる気さえあれば、僕は外資系の方が自分の能力を発揮できると思います」

 男性が自分の会社が外資系企業に買収されたと知ったのは、通勤電車の中だった。
 突然、社名が変わり、上司が外国人になった。「リストラ」という文字が頭から離れない。
 ところが、それまで経験したことがないような丁寧な面談が、繰り返された。入社時から今までの経歴や経験を尋ねられ、実に誠実に自分の話を聞いてくれていると感じたという。同僚の中には転籍を打診されたり、自ら退職を希望したりする人もいたけど、会社は本人が納得するまで徹底的にサポートし、辞めていく同僚たちから会社への恨み節は一切なかったそうだ。

夢のような会社とは

 これは今から5年前に、ある外資系企業に講演会で呼ばれたときに、担当者の男性が話してくれた内容である。
 新型コロナウイルス禍で産業構造が変わり、求められる能力も変わる中、男性はどうしているか、先日、久々に連絡を取ってみた。

 「僕は今、ある半年間のカリキュラムに参加しています。その間、給料が減らされるという点は、なかなか厳しい現実ですが、今後の事業展開には確実に必要な内容なので、今は学ぶことに集中しています。あ、といってもそこは外資といいながら日本なので、週2回は会社の仕事もやってますけどね。
 希望退職ですか?
 もともと年齢制限なく誰でも希望できるので(応募状況に)変化はないですね。ひょっとすると、この後増えてくるのかもしれませんが、会社の方針としては、今いる人材のスキルアップに投資して、新規の事業展開を目指してるんだと思います」

 実は、男性にコンタクトしたのは、日経新聞の記事がきっかけだった。先週、お盆真っただ中に(新型コロナでお盆休みも関係ないということで)リモート会議があり、そこで日経の記事が話題になった。8月11~13日付の朝刊に、“リスキリング”に関する特集記事が掲載されていて、そこで取り上げられた日本の某企業の話になり、
 「夢のような会社だよ~」
 「本当、二極化だなぁ」
 「いやいや、二極じゃなくて一極でしょ」
 「ごくごく一部には、夢のような企業があるってことですよ」
 「そう。あとは……非正規(雇用)増やしまくって、切りまくったわけでしょ」
 「日本の企業って、結局、経済大国の仲間入りした途端、米国のまねをして。今は何を見習ったらいいのか分からなくなってんじゃないのかな」
 などなど、多いに盛り上がった。

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