(写真:Shutterstock)
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 最低賃金の引き上げを巡り、「雇用を維持するためには~」「雇用維持が一番大事~」「雇用維持ができなくなる~」など、今年も昨年同様「雇用維持」という言葉が飛び交っている。

 そう、
 “昨年も”、そうだった。
 こちら(「上がらぬ賃金と『雇用維持』というまやかし」)で書いた通り、2020年当時は、かつてないほど「雇用維持」という4文字が連日飛び交い、「33時間に及ぶ協議の結果、20年度の最低賃金は、事実上据え置きで決着」した。20年7月にはすでに多くの企業が新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、非正規雇用の人たちが仕事を失っていたので、「最低賃金を上げると、もっともっと雇用に悪影響が出る」という理屈に基づく決定だった。

「生産性」って何?

 で、今回、全国平均で過去最大の28円増となり、上げ幅は3.1%。最高額の東京では時給1041円、最低額の秋田や高知などでは820円になる。相次ぐ緊急事態宣言による営業自粛要請で、多くの非正規雇用の人たちの収入が減っているのだから、3.1%増は至極当たり前であろう。というか、日本の最低賃金が先進国の中で際立って低いことは周知の事実だし、日本が据え置いた昨年も諸外国で賃上げが相次いでいたのだから、3%程度ではむしろ少ないくらいだ。

 ところが、メディアから聞こえてくるのは、「なぜ、今なんだ!」という中小企業からの悲鳴ばかり。とりわけ、今なお店を開けることも、酒を出すことも許されない「飲食店の経営者は怒り心頭」であり、テレビの画面には「時給を28円引き上げると、月額〇〇円で、年間〇万円の負担増ですよ。これじゃあやっていけない」と苦悩する経営者の表情が映し出されている。

 一方、賃上げのニュースを伝えるMC(番組司会者)や、賃上げにコメントする識者や、賃上げを取り上げる記者たちが好んで使っているのが「生産性」という言葉だ。

 「まずは生産性を向上して、それを労働者に分配するのが好ましいんですけどね」
 「そうそう、とにかく生産性」
 「最低賃金を上げることより、生産性の向上が鍵」
 「そうそう、DXだよ。DX」
 「経営者は知恵を絞って、労働者の生産性を上げる仕組みを考えないと」
 etc.etc.

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