もっとも、どんなストーリーをおのおのが持っているかを、この調査結果から推察するのは無理だ。

 しかし、私がこれまでインタビューした中で、人格的成長を強化していた人たちには、「このままではつまらない人生になってしまう」「ここで腐ってたまるか」という自分への怒りがあった。特に、役職定年などの外的な圧力によるライフサイクルの変化に遭遇した人たちは、それが顕著だった。

幸せのボールを回せているか

 彼らは、自分の立場に戸惑い、投げやりになったり、息を潜めそうになったりした経験をしながらも、「このままじゃつまらない」とあらがい、主体的に動いた人たちだった。目の前の仕事を「少しでもいい仕事」にすべく努力していた。ホッコリ編で挙げた人たちも似たような経験をしていると思う。

 一方、切ない編の人たちは、目の前の「仕事」に向き合っていない。ただただ、「なんでこんな目にあわなきゃいけないんだ?」「あんなに苦労して手に入れたポジションなのに」と過去にとらわれ、前に踏み出せないのだ。

 「でもさ、プライベートの時間ができた~とか、自由時間の増加~とか、これはこれでいいじゃん」
 こう思われる方もいることだろう。
 もちろんそれはそれで大切なことだ。人には「仕事」「家庭・大切な人」「健康」の3つの幸せのボールがあり、「仕事」のボールを高く上げることに躍起になっていた人生から、家庭や健康のボールの存在に気づく人生に変わるのは悪いことではない。

 しかし、3つのボールをジャグリングのように回すことが幸せへの道。つまり、「仕事」を遠ざけ、家庭や健康のボールを回し続けたところで、やがて「空虚感」にさいなまれる。自分が存在する意義さえ分からなくなる。

 人間のメンタルヘルスと精神的成熟に「仕事」の重要性を説いた、オーストリア出身の心理学者マリー・ヤホダは、金銭的報酬以外の機能として次の5つを挙げた。

  1. 仕事に基づいた時間感覚・生活構造の形成と日常生活の組織化
  2. 家族以外の社会(コミュニティー)への規則的な接触・参加
  3. 自己の能力を超越する目標・目的との結びつき
  4. 社会における個人の地位・アイデンティティーの確立
  5. 個人に対する活動の要求

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