河合:柔道は日本のお家芸と考えられて、いつも金メダルを期待されているので、ちょっと新鮮というか、驚きというか。

山口:もちろんフランス人も金メダルを取りたいと思って頑張っていますが、「柔道の本当のよさはそこじゃないよ」とフランス人によく言われるんです。嘉納治五郎が目指したもの、つまり柔道にはメダルよりも、もっといいところがたくさんあると。何でそれをフランス人から言われなきゃいけないんだろうとも思うんですが、日本柔道はいつしか五輪での金メダルに傾倒してしまい、本当の良さを見ないできてしまったのかもしれません。

スポーツをなりわいにできるのは一握り

 実際、日本ではオリンピックでの金メダルを期待されるので、柔道のよさを子供たちに教えていくことより、金メダルを取る人をつくっていくことを重視し過ぎた面は否めません。

河合:オリンピックの金メダル予想とか、金メダルへの重圧とか、アスリートの人たちはどう思っているのでしょうか。

山口:IOC(国際オリンピック委員会)は、オリンピックは国家間の競争ではなく、競技者がそれぞれのベストを尽くして競い合うもの、といった理念を掲げています。ただ、やっぱり金メダルをいくつ取ったのか、日本は何位なんだってことに興味が湧くのは当然かもしれません。

 アスリートたちはそれぞれの目標に向かって頑張っているので、メダルの数をカウントされることを嫌だとまでは思わなくてもよいですが、余計なプレッシャーにはなっている、とは思いますね。特に柔道を含めて、お家芸といわれるスポーツでは。

河合:期待をよいプレッシャーに変えていかなくちゃ、なので難しいですよね。私は、谷亮子さん(元柔道選手、旧姓田村)の「最低でも金、最高でも金」という言葉が忘れられないんです。

山口:自分で自分を追い込むというのはあってもいいし、おそらく谷亮子さんはそちらのタイプだったのかなと。最初に公言して、実行するという強さが、彼女にはありましたね。

河合:国を背負うみたいなプレッシャーは?

山口:今のアスリートたちは、そういう感覚は大きくないと思います。国よりも、例えば近くにいる家族や恋人、チームメート、応援してくれている人たちが、自分が頑張ることで喜んでくれるということが、すごく大きなモチベーションになっていると思います。

河合:少しだけホッとしました(笑)。今は人生100年時代で、誰もがセカンドキャリアを見据えて働くことが求められていますが、アスリートのセカンドキャリア、つまり、現役引退後のキャリアを描くことは、やはり難しいのでしょうか。

山口:それこそ「負けることを考えるな」と一緒で、昔は「やめた後のことなんか考えるな」という感じはありました。でも、今はやめる直前まで、精いっぱい自分の力を発揮するためにも、次のことを考えておいた方がいいよ、という教え方はしています。ただ、好きで始めたスポーツをなりわいにして生きていける人は、ほんの一握りしかいないと思います。

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