健康社会学者の河合薫氏と、日本オリンピック委員会(JOC)理事でもある山口香筑波大学教授が「東京五輪は開催されるか? 勝利至上主義と“おじさんの森”」と題して実施したライブ対談の模様を3回に分けてお届けします。今回はその2回目です。最終ページでは、対談動画をご覧いただけます(編集部)。

※本記事は、対談の模様を編集してまとめたものです。

健康社会学者の河合薫氏(左)と日本オリンピック委員会(JOC)理事でもある山口香筑波大学教授(写真:Shutterstock)

河合薫氏:私は、山口さんに(想定外の事態となっている東京オリンピック・パラリンピックにおいてリーダーシップを取ることを)ぜひやってほしいと思うんです。でも、そういうこと自体、つまり、「私が!」と手を挙げること自体、できない空気があるのでしょうか?

山口香氏:私もいろいろと発言はしていますが、やっぱり組織には組織としての対応というのが求められます。その組織の長を選ぶにも、いろいろな方法がありますが、やはりリーダーになるためには(リーダーとして)選ばれなければいけないわけで、「私がやります」と言って選ばれるわけではない。

 オリパラに関して言えば船頭が多いと思っています。JOC(日本オリンピック委員会)の会長、東京都の都知事、組織委(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)の会長、オリパラ担当大臣、それぞれに役割がありますが、じゃあ、誰が先頭に立って意思決定をするのか。そうしたところが、何て言うんでしょう、明確には決まっていない。

 うまく意思の疎通ができていれば、まだ何とかなるのでしょうが、できていないことも往々にしてあると思います。

観客の空気感が選手の背中を押す

河合:互いに仲が悪いわけではないのですよね?

山口:それぞれの立場でそれぞれが考えているんだけれども、風通しであったり統一感であったり、そして誰が本当に何を決定するんだという役割分担が、いま一つはっきりしていないことが、一番の問題だと思います。

河合:では、質問を変えますね。組織を離れた、本当にいちアスリートとしての山口香さんの意見としては、今回のオリンピックというのは今の段階でどうすべきだと思っていらっしゃるんですか。

山口:私自身はアスリート出身で、1988年のソウル五輪に出場させてもらった経験があります。そのときのオリンピックを思い出してみると、柔道って、皆さんはメジャーなスポーツのように思っていらっしゃるかもしれないんですけど、実際には、結構マイナー競技です。普段から人気があって、みんなに応援されているというよりは、オリンピックになると突然人気が出る。「金メダルを取ってくれる競技」だと期待されるんです。

河合:金メダルじゃないと……、みたいな空気ありますよね。

山口:はい。でも、注目されるのは決して悪いことではない。私はオリンピックに出場したときに、オリンピックってどんなマイナー競技であっても平等にメディアが活躍を伝えてくれることが、すごいことだなと思ったんです。

河合:なるほど、そうですね。

山口:皆さんが注目してくれる。よく知らない競技でも、皆さんが見てくれて、背中を押してくれる。それによって選手たちは、頑張れるんです。自分たちが頑張ることで皆さんに勇気や元気を与えたいと言う選手が時々いますが、それは逆だと思っています。

 応援してくださる皆さんの空気感が、私たち選手の背中を押してくれて、普段以上の力を出せるところがあります。そして、力を出した選手の姿を見て、一般の人たちにも、「ああ、選手はみんな頑張っているんだなあ」と感じていただく。そういう相乗効果を生むのが、オリンピックではないかと思っています。

河合:確かに、オリンピックやパラリンピックがあると、にわかファンが急増するし、見ているほうも熱くなるといいますか。

山口:なので、今の状況でやれるか、やれないかといったことを考えたら、私はやれると思っています。どんな状況であっても、やろうと思えばできると思うんです。いろいろなことを振り払って、やろうと思ったらやれると思います。

 ただ、一番懸念しているのは、皆さんの応援です。

山口香氏
筑波大学体育系教授、日本オリンピック委員会(JOC)理事

1989年筑波大学大学院体育学修士課程修了。1978年第1回全日本女子体重別選手権大会で最年少優勝(13歳)。以後10連覇。世界選手権で4個の銀メダル。84年第3回大会で日本女子初の金メダル。88年ソウル五輪で銅メダル。翌年引退。シドニー五輪、アテネ五輪で日本柔道チームコーチ。日本バレーボール協会理事、日本サッカー協会理事、コナミホールディングス社外取締役、日本BS放送社外取締役。筑波大学で教鞭(きょうべん)をとる傍ら、JOC理事などとしてスポーツ全般の普及発展に努める。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1471文字 / 全文5055文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、9年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「河合薫の新・社会の輪 上司と部下の力学」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。