言わずもがな日本は先進国で相対的貧困率が高い。特に女性の場合「就業率は高いのに貧困率が高い」という意味不明な事実も存在する。欧州では有期雇用は「人権を守るのに足りない雇用制度」とみなされ、禁止されたり制限されたりしている。賃金も「不安定手当」が支給されるので、無期雇用より高いことも多い。

 日本のセーフティーネットは「正社員」が前提なので、非正規は隙間に落ちてしまいがちなことも問題である。正社員の雇用保険・健康保険・厚生年金の加入率は98%近くあるが、正社員以外では雇用保険71.2%、健康保険62.7%、厚生年金58.1%(厚生労働省「令和元年就業形態の多様化に関する総合調査」)。コロナ禍の雇用調整助成金からも、非正規の人たちは“落ちた”。休業手当も、休業支援金も受け取れないケースが相次いだことは、繰り返し報道されていたのでご存じであろう。

中間層の没落が始まる

 今こそ、「アフターコロナ」に向けて社会保障のあり方も見直す必要があるのに、そこに向かう“温度感”が全く伝わってこない。高所得者の上級国民には、見えない。いや、見ようという気持ちすらないのかもしれない。

 しかし、ごく一部の高所得者以外は、今後、“落ちる”。中間層の没落がコロナ後に始まると多くの人たちが指摘しているけど、私も全く同じ意見だ。

 5月末、ニッセイ基礎研究所が実施した調査で、低所得者ほど収入が減少していることが分かった。「コロナ前と比べて就労収入が1割以上減少した割合」は、世帯年収200万円未満では23.5%だったのに対し、800万円以上1000万円未満で10.5%、1500万円以上ではわずか6.5%だった。個人年収も同様の傾向で、600万円未満では15~16%だったのに対し、600万円以上では1割前後だった(資料)。

 また、労働政策研究・研修機構が、連合総合生活開発研究所と20年5月、8月、12月、21年3月の計4回実施したパネル調査では、以下のことが分かっている(資料)。
*インターネット調査会社のモニター登録会員のうち、20年4月1日時点で20歳以上64歳以下の「民間企業で働く雇用者」と「フリーランスで働く者」が対象。上記の要件を満たせば、調査時点までに失業・失職した者も含まれている。

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