写真はイメージです(写真:Shutterstock)

 それは衝撃的なコメントだった。
 「最初は、何でみんなマスクをしてるんだろ~、って思ってたんですよ。なんでか分からなくてね。新型コロナウイルスだってことを知って、せきなどで感染すると聞いて心配になった」

 いわゆるホームレスだったという男性が、テレビの画面でこう話していたのである(6月1日、NHK「首都圏ニュース」で放送されたコメントの大意です)。

感染を避ける情報が届かない

 誰もが新型コロナのことを“知っている”という前提で、1年以上、コラムを書いてきたけど、大切な情報が届いてない人たちがいる、という当たり前に気づかされた。2001年の米国同時多発テロが起きたときに、その前から1週間、編集室にこもって仕事をしていた知人のディレクターが、久々に外に出て食堂のテレビでワールドトレードセンター(WTC)ビルが崩れ落ちる映像を見て、「ゴジラの新しい映画なのかなぁって思っていたんだよね」と、嘘のような本当の話をしてくれたこともあった。

 どんな世界的一大事でも、誰もがちょっとしたタイミングで“情報難民”になるご時世だ。コロナ禍においても、「金がない、仕事がない、家もない、テレビもない、スマホもない、家族も友人もいない」人たちには情報が届かない。感染を避けるための知識も、ワクチン接種券も、一切届かない。そして今、そういった生きるために必要なさまざまなリソースが欠損した人たちが増え続けている。

 20年11月に起きた、渋谷区のバス停で野宿をしていた60代の女性が、40代の男に殺された事件は記憶に新しい。女性はコロナ禍の前までは、ごくごくフツーに生活していた私たちの“隣人”だった。しかし、なりわいとしていたスーパーなどでの試食販売の仕事がコロナ禍の影響でなくなり収入が途絶えた。貯金も底をつき、アパートの家賃が払えなくなり、バス停のベンチでひっそりと夜を明かしていたという。

 自分の生活圏においても、ホームレスが増えたと実感する。いつも通る公園のベンチで、いつも使う地下鉄の出口で、いつも立ち寄るコンビニ横の駐車場で、40代、50代、あるいは60代くらいだろうか、段ボールを敷いて寝ている人たちがいる。

 私は度々、コラムで貧困問題を取り上げてきたけど、自分にできることといったら、こうやって発信すること、NPOなどに寄付することくらいで。寒さに震えている人を見かけても、声をかけてよいのかも分からず、自販機で買ったコーヒーをそっと置くくらいしかできていない。
 一度だけ交番の裏のベンチで凍えている人がいると警察官に伝えたのだが、「出てってくれって、何度も言ってるんだけど戻ってきちゃうのよ。ホント困っちゃうよね~」と笑顔で返され、あぜんとした。そういう意味で言ったのではないのに……。

続きを読む 2/5 世間の「冷たい眼差し」

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