ところが、その力が引き出されない。2000年以降、子供たちが自ら命を絶つ悲劇が繰り返され、小中高校生の自殺者は毎年300人前後で推移。大人の自殺者数は減っても、小中高校生の悲しい死は減らなかった。
 そして、今回のコロナ禍で、大人の自殺も増加し、子供の自殺はついに500人に迫る勢いになってしまった。これは……異常だ。本当に異常な社会だ。

生きる力、SOCとは

 健康社会学では、「生きる力」をSOC、Sense Of Coherenceという概念で説明する。
 SOCは日本語に直訳すると「首尾一貫感覚」。文字通りに解釈すれば、自分が生きている世界はコヒアラント(coherent)である、つまり筋が通っている、腑(ふ)に落ちるという感覚である。

 それらは第1に、自分の内外で生じる環境刺激は、秩序づけられ、予測と説明が可能なものであるという確信(把握可能感)、第2に、その刺激がもたらす要求に対応するための資源はいつでも得られるという確信(処理可能感)、第3に、そうした要求は挑戦であり、心身を投入し、関わるに値するという確信(有意味感)からなる、「困難があまねく存在する人生を生き抜く」ためのたくましさだ。

 この3つの確信を高めるのが、「一貫した経験」と「あなたは大切だ」という価値あるメッセージだ。

 一貫性の経験とは「ルールや規律が明確で、価値観の共有」がなされている状態のこと。一方、子は親や学校から、大人は会社や地域から、「大切にされている」というメッセージを肌で感じることで、「私は信頼できる人たちに囲まれている」と知覚する。

 こういった経験の繰り返しが「自分がいる世界は変化しているのではなく、一貫した世界で、自分を裏切ることなく頼れるものだ」という確信につながり、生きる力=SOCが高まっていくのである。

 1年以上続けられているコロナ感染拡大防止策に、「ルールや規律が明確で、価値観の共有」がなされている、という実感はあるだろうか。
 「自分は大切にされている」と子供が肌で感じるメッセージを送れているだろうか。

 これまでも繰り返し書いている通り、感染拡大防止策はどれもこれも、決して腑に落ちるものではなかった。その都度その都度、あれをどうするこれをどうすると、“リーダー”が集まってあれこれ決めたり、「科学的根拠」に基づかない全く腑に落ちない対応が、緊急事態宣言の延長が決まった今も続いていたりしている。この状況には、悲しいという言葉しか出てこない。

次ページ 科学的根拠に基づくマスク着用