何より、退職後の60歳代の自分のライフプランを考えるうえで、『よく知っている会社で正社員』として仕事が続けられるという選択肢ができたことは、とても有意義なことだと思っています。

 私も今、60歳です。あるタイミングで退任し、次期社長にバトンを渡すことになることでしょう。前社長としてきちんとサポートはするつもりですが、その後はこの制度を活用して、一社員として、三谷産業グループのどこかで、自分の経験や能力を生かす仕事をさせていただこうと思っています。

50代は若手の時代に備える

 私は三谷産業に1983年に入社して以来、営業畑一筋でやってきました。

 新規顧客や新規地域の開拓(三谷産業)、新規ビジネス立ち上げ(ディサークル転籍)に関わってきて、02年に代表取締役になってからも、営業部長を兼務してきました。

 13年に社長専任になってからは、現場に行く回数が減り、自分としては物足りなさがありました。もちろん社長という責任あるポジションは、そこでしか味わえない魅力もあります。

 でも、現場の声を直接聞きながら新規ビジネスをするのが、私の働きがいなんです。それを私がやってきたことだという自負もある。

 なので、私は一社員として働くことに違和感はありませんし、むしろ60歳を過ぎた自分の活動により、三谷産業グループとその先にいるお客様に恩返しをしたいと思っています」

 なぜ、人は働くのか?

 哲学者や研究者たちが、古くからこの問いの答えを探してきた。

 いったん職を失った人が再び仕事を得た場合、精神的健康度が向上することは、これまでの研究から一貫して示されている。また、賃金の低い不定期な仕事であっても、働いている人は働いていない人より、活動的で自立心が強く、精神的に安定していることも認められている。

 「働く」という行為には、「潜在的影響」と呼ばれる、経済的利点以外のものが存在する。潜在的影響は、自律性、能力発揮の機会、自由裁量、他人との接触、他人を敬う気持ち、身体および精神的活動、1日の時間配分、生活の安定などで、この潜在的影響こそが心を元気にし、人の生きる力を引き出す。

 つまるところ、「仕事」は幸福に生きるための、生きる力を支える極めて大切なリソースなのだ。

 ところが、60歳という年齢で、突然、居場所を失い年寄り扱いされるようになる。自律性は求められなくなり、能力発揮の機会は失われ、自由裁量権などない「こなす仕事」を任され、他人との接触も減り、周りからはお荷物扱いされ、単なる「労働」をするだけの日々が繰り返される。

 人は何のために働くのか? カネのためであって、カネだけではない。

 人生100年時代、そしてコロナ禍での、いちばんの心配事は、「ちゃんと稼げるだろうか?」「生活できるだろうか?」であることは間違いないだろう。

 だが、こんなときだからこそ、会社は「仕事の意味」を理解し、ベテラン社員も含めたすべての社員が「人が秘める能力を最大限に引き出す職場」をつくることが大切なんじゃないだろうか。

 数年経てば「50代は若手」になる。その未来に備える意味でも。

コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)


本コラムに大幅加筆のうえ新書化した河合薫氏の著書は、おかげさまで発売から半年以上たっても読まれ続けています。新型コロナ禍で噴出した問題の根っこにある、「昭和おじさん型社会」とは?

・「働かないおじさん」問題、大手“下層”社員が生んだ悲劇、
・「自己責任」論の広がりと置き去りにされる社会的弱者……
・この10年間の社会の矛盾は、どこから生まれているのか?
そしてコロナ後に起こるであろう大きな社会変化とは?

未読のかたは、ぜひ、お手に取ってみてください。 

この記事はシリーズ「河合薫の新・社会の輪 上司と部下の力学」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。

ウェビナー開催、「1時間で完全理解 『量子コンピューター』は何がすごいのか」

 岸田内閣の「新しい資本主義」の重点投資に組み込まれた量子コンピューター。既存のコンピューターよりも処理速度が速いといわれる量子コンピューターですが、その技術や、我々の社会や経済をどう変える可能性があるのかを理解している人はまだ少ないのではないでしょうか。

 日経ビジネスLIVEでは9月13日(火)19:00~20:00に「1時間で完全理解、 『量子コンピューター』は何がすごいのか」と題してウェビナーをライブ配信する予定です。登壇するのは、住友商事で新規事業創出を担うQXプロジェクト代表・寺部雅能氏と、業界動向に詳しい野村総合研究所IT基盤技術戦略室エキスパート研究員の藤吉栄二氏。量子コンピューターの技術的な特徴から、ビジネス活用の最前線まで分かりやすく解説します。

■開催日:2022年9月13日(火) 19:00~20:00(予定)
■テーマ:1時間で完全理解、「量子コンピューター」は何がすごい?
■講師:寺部雅能氏(住友商事QXプロジェクト代表)、藤吉栄二氏(野村総合研究所IT基盤技術戦略室エキスパート研究員)
■会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(原則ライブ配信)
■受講料:日経ビジネス電子版の有料会員のみ無料(事前登録制、先着順)
>>詳細・申し込みはリンク先の記事をご覧ください。