その半年後、会社を辞めたと連絡がきた。
「体調が完全ではなかったので会社を辞めなくてはならなくなった。非正規なので仕方がないです」ということだった。
その数カ月後、体調も自己コントロールできるところまで回復し、就職も決まった。
ここまでで既に、「これでもか!」というくらい苦難を経験しているので、てっきり私はその後はうまくやれていると信じていた。……願いも含めて。
が、苦難は終わらなかった。「そのままいるという選択肢は持てない」という状況に追い込まれてしまっていたのだ。
ようやく見つけた充足した人生
40代後半→非正規→がんばりすぎる→メンタル不調 という悪循環に再び、陥ってしまったのだろう。
でも、世の中は捨てたもんじゃない。運良く転職先が決まり、「少しだけ良い一年だった」とほほ笑む瞬間に出合えた。
「不安なときにこそ、『こういう人生でありたい』『こういう自分でいたい』という崇高な問いを何度も繰り返す。具体的には、『人生における目的』や『自分が大切に思う人』を明確にして、『自分の気持ち』や『決断』を信じた人ほど、充足感のある人生を送れる」――(by キャロル・D・リフ)
そう。男性の心理的ウェルビーイングは数多の苦難を乗り越える中で高まり、コロナ禍の厳しい状況下でも充足感のある人生を手に入れることに成功していた。本当にすごいことだと思う。
前述した「健康生成論」は、人間のポジティブな力に帰する概念である。
提唱したのは、何度もコラムでとりあげているユダヤ系米国人の健康社会学者アーロン・アントノフスキー博士だ。
アントノフスキーは、「本当に人間が健康でいるためには、健康の謎を解く必要がある」として、それまで医学や心理学が「疾病要因」だけに焦点を絞ってきたことを反省し、「健康要因(“元気になる力”あるいは“傘”と私は呼んでいる)」を探る必要があると説いた。健康と健康破綻とは連続体状に存在し、真の健康は「元気になる力」なくして手に入れることはできないとし、「健康生成論」を唱えた。
ご存じのポジティブ心理学も、私が何度も書いているSOC理論も、今回のキーワード「心理的ウェルビーイング」も、そして、近年好んで用いられる「レジリエンス(回復力)」も、人間のポジティブな側面に着目し、強化しようとするアプローチ=健康生成論に基づいている。
「ネガティブ=弱さ」と「ポジティブ=強さ」は、コインの表と裏のような関係ではなく、全く別の次元で存在し、人間が健康で幸せに生きるためには、ポジティブな要因である「元気になる力」を増やし、人間の強さを引き出すことが極めて大切である。
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