一方、制度が異なるので単純に比較はできないけど、病院ベッド100床あたりの看護師数はドイツやフランスの半分程度しかいないのに、看護資格の必要のない仕事(ベッドメーキング、配膳、薬剤などの在庫管理、心電図モニターの保守点検など)や医師の業務を任されていて、「看護師は専門職としてではなく、使いやすい安価な労働力とされ続けている」という批判もある。

 医療現場に代表されるヒューマンサービスの現場では、相手の人格やプライベートにまで踏み込んだ理解が必要な場合もあり、そこに費やされるエネルギーは並大抵ではないのに、看護師は「低賃金で都合よく使われている」。

 その背景にあるのが、看護師=医師の補助的な仕事=女性の仕事 という価値観の根深さだ。

柔軟な働き方ができない看護師のリアル

 最近は、病院に行くと男性看護師が増えていると実感する人も多いかもしれないけど、男性看護師割合は7.3%(平成 28 年衛生行政報告例の概況)。つまり、看護職は90%以上が女性で、「働く女性の20人に1人が看護職」といわれるほどジェンダー化されている。

 冒頭の医療関係者が指摘するように、育児との両立が難しいどころか、育児休暇を取るのも厳しい。夜勤もあるので、家族の理解も必要になる。

 女性が活躍している職業なのに、女性であることの犠牲を強いられる。柔軟な働き方だの、育児と仕事の両立だのといわれるのに、それができない環境がある。看護師の数は増え続けているのに、その陰では(65歳以下で資格を持っているのに、現職の看護師として臨床現場で働いていない)潜在看護師も増え続けているという悪循環が生じている。

 一方、ジェンダー化されていることで、「男なんだから機械に強いでしょ」「男なんだからこれ運んで」といった男性看護師差別問題もあとを絶たない。

 厚生労働省の推計によれば2025年には6万~27万人の看護師が不足すると推計されているのに、看護師さんたちが安心して働き続けられる環境になっていないのだ。4年に1度行われる「平成30年度 厚生労働科学特別研究事業 『看護職員確保対策に向けた看護職及び医療機関等の実態調査』」でも、様々な事情や希望に対応した、柔軟な働き方ができるような環境整備が職場に求められていることがわかっている。

 そんな状況で起きたコロナ感染拡大。今、この時間も必死で働いている医療関係者たちのために、私たちができること。それぞれの立場でできること。たくさんある。どうか誹謗中傷や差別だけは絶対にやめてください。

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