(写真:Shutterstock)

 「老孫介護」という言葉がある。

 1990年代後半から研究者や介護福祉関係者の間で使われていて、さまざまな“家族の都合”により孫が祖父母の介護を担っている状態をいう。一般的にはヤングケアラー(詳細は追って説明)と呼ぶことのほうが多いかもしれない。

 その老孫介護の痛ましい結末に至るまでの経緯を取材した毎日新聞の記事が、SNS上で大きな反響を呼んだ。「『限界だった』たった1人の介護の果て なぜ22歳の孫は祖母を手にかけたのか」という衝撃的なタイトルでつづられた記事の内容は、日本では「見て見ぬふり」をされ続けてきた社会問題の理不尽さを想起させるものだった。

 言い方を変えれば、誰もがちょっとした人生のタイミングのずれにより、同様の事態に陥るやもしれないってこと。そして、これは何度もこのコラムで指摘しているとおり、社会のしくみの結果だ。家族の問題=他人のエピソードで終わらせてしまうのではなく、社会のしくみの問題=制度として捉えるべき問題である。

社会が知らない老孫介護の実態

 老孫介護の最大の問題は、その実態が社会に知られていないことであり、「孫」がいとおしさをイメージさせる存在であるが故に「お孫さんが介護だなんて。おばあちゃん(おじいちゃん)思いのいい子だね」などと美談にされがちなことだ。

 そこで今回は、「老孫介護」の実態とその問題点を考えてみようと思う。

 まずは事件の概要からお話しする。
 2020年9月18日。神戸地裁は、2019年10月に、神戸市の自宅で祖母(当時90歳)の介護中、口にタオルを突っ込んで窒息させ、殺害したとして、殺人の罪に問われていた22歳の女性(=孫)に対し、懲役3年執行猶予5年の判決を言い渡した。

 裁判長が「犯行は危険なものでいささか短絡的」と指摘した上で、認知症の被害者を一人で介護し、その介護による「睡眠不足や仕事のストレスで心身ともに疲弊し、強く非難できない」としたように、亡くなった祖母には、22歳の孫以外に3人の子供(女性の伯父、父、叔母)がいて、いずれも徒歩5分圏内に住んでいた。にもかかわらず、介護は孫の女性がほぼ1人で担っていたという。

 女性がまだ幼い頃に両親は離婚し、小学校1年生のときに母親は他界。その後、児童養護施設に移された女性を引き取り、育てたのが、父方の祖父母だった。

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