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健康社会学者の河合薫氏(左)と立命館アジア太平洋大学(APU)学長である出口治明氏(出口氏写真:山本 厳)

 健康社会学者の河合薫氏と立命館アジア太平洋大学(APU)学長である出口治明氏による「昭和おじさん社会は変わったのか」というテーマでのオンライン対談。男社会というより「性差別の時代」と捉えるべきだという「昭和論」から、ウィズコロナで非正規化が進行しているという現在の厳しい雇用の問題まで。議論が白熱した「第1回」に続き、第2回の模様をお届けする(編集部)。

出口治明氏:この前、面白い話を聞きました。テレワークをやっているお父さんが、「飲みニケーションで上司の説教を聞いているより、家族でご飯を食べている方が楽しい。でも家には自分のいる場がないんです」と話すのです。

河合薫氏:悲しい現実ですね、お父さん、会社ばっかりでしたもんね。

家庭は家事、育児、介護の場所

出口:でも、それが当たり前だったので、仕方がないですよね。会社でも職場でも、仕事をしなければ自分の居場所はありますか。ないでしょう。職場でも仕事をしなければ居場所なんかないんですよ。

 一方で、家庭は何をするところかといえば、家事、育児、介護の場所ですよね。そうであれば、お父さんは家庭の社長であるパートナーに手をついて、「僕は新入社員です。家事、育児、介護のやり方が分からないので教えてください」と頼めばいいんです。会社でもそうだったように、家庭でも仕事をやって初めて居場所ができる。そういう認識を持たなくては、いつまでたっても居場所はできないですよ。「子供と話すのが楽しいけれど居場所がない」なんてぼやくのは、まさに昭和おっさんそのものですよね。昭和おじさんは、やっぱり考え方をたたき直さなきゃいけませんね。

河合:たぶんこれを今、聞いているお父さんたちは、グサッときているかもしれません。最近は定年ウツなんて言葉もあるように、定年後の居場所が一つのテーマにもなっていますね。

 先ほど「昭和おじさん社会は『性差別社会』と言った方がいいね!」で、ライフネット生命での採用は年齢フリーにしたというお話がありましたが、定年はあったのでしょうか?

出口:ライフネット生命に定年はないと就業規則に明記しました。グーグルの話をしましたが、個人差は性差や年齢差を超えるわけですから、やはり働いている人たちが、まずは自分の会社で社長と話し合って、定年をなくしましょうという運動をやってほしいですね。

河合:私は実際にはまだ定年になっていないのに、「心の定年」を迎えてしまっている人が多いように思います。たとえ、会社に定年制度があっても、自分にできる目の前のことを120%、毎日毎日やり続ければ、自分の定年はなくなると思うんです。

 私は会社という組織にいないので定年も当然ありません。あした食べるためにできることといったら、目の前のことを必死にやることしかない。ただ、自分がどんなに頑張っても、6割とか5割ぐらいにしか評価されないんですけど、前に進むしかないんですよね。

 なので、まずは「心の定年」を無くしてほしいと応援歌を送っているつもりなんですけど、これがなかなか難しい。まずは様子見といった具合に、二の足を踏んでしまうみたいで。

河合薫(かわい・かおる)氏
1988年、千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。2004年、東京大学大学院医学系研究科修士課程修了、2007年博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は700人を超える。長岡技術科学大学非常勤講師、東京大学講師、早稲田大学非常勤講師などを務める。医療・健康に関する様々な学会に所属。(写真:稲垣純也)