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(写真:Shutterstock)

 「うちはね、家庭内格差が顕著なんです。長女は正社員で、次女は非正規社員。2人には圧倒的な賃金格差があって、しまいには健康格差まで、出てきているんです。あるとき、僕がね、会社で死にたいくらい嫌なことがあって、落ち込んで帰った。そしたら、家にいる次女のほうが、『痒(かゆ)くて痒くて死にたい』って泣いてるんですよ。仕事のストレスからアトピー性皮膚炎になってしまってね。もう、かわいそうでかわいそうで……」

 こう話すのは大手企業に勤める会社員の男性である。

 男性のお嬢さんは2人とも、都内の私立大学を卒業して、社会人になった。

 しかし、次女は就職氷河期世代。第3希望の会社に「契約(社員)だったら」という条件を提示され、「頑張って結果を出せばいつか正社員になれる」と信じて、就職を決めたそうだ。

 ところが、正社員への道は一向に開けなかった。

最高裁判断への絶望感、正社員に届くか

 「非正規社員という、将来が描けない状況を、なんとか打開したい、会社に自分を認めさせたいと、ひたむきに頑張っていました。なのに、報われない。全く報われないんですよ。私の部下の中にも非正規社員の人たちがいます。彼らはどんなに優秀でも、昇進試験を受けることすら許されません。
 娘のことを見ているんで、つい彼らに感情移入しちゃってね。ずいぶんと会社では上とけんかしてますよ。なんとか私が定年になるまでに、彼らが正社員になれる道をつくってあげたいんだけど。……その願いは遠のくばかりです」――。

 男性は「非正規」という雇用形態の不条理を、温度ある言葉で語ってくれたのだ。

 先週、非正規社員の賞与と退職金をめぐる裁判で、最高裁判所は「格差は不合理とまでは評価できない」という判断を下した(判決内容の詳細は後ほど)。

 「同一労働同一賃金」を定めた働き方改革関連法が4月に一部で施行されて以降、初の最高裁判決だっただけに、メディアも大きく報じていた。しかし、その“報道熱”の急速な低下に、なんとも言葉にしがたい憂いを感じている。

 「娘のことがあるから、彼らについ感情移入しちゃってね」という、くだんの男性の言葉が、意味するものは何か?

 この判決への絶望感は、「正社員」の人たちに届いているのだろうか?