転校した直後からいじめは始まり、名前に「菌」を付けて呼ばれ、鬼ごっこの鬼ばかりさせられた。
そして、両親が公開した手記にはこうつづられていたのだ。
「いままでなんかいも死のうとおもった。でもしんさいでいっぱい死んだから、つらいけどぼくはいきるときめた」
「みんなきらいだ、むかつく、学校も先生も大きらいだ」
「教室のすみ、防火扉にちかく、体育館のうら、『人目が気にならないところに持ってこい。賠償金あるんだろう』と言われた」
何度読んでも胸がつまる。生き抜いてくれたとことに頭が下がる思いだ。賠償金? いったいなぜ、子供たちの間で「賠償金」なんてことがいじめにつながったのか?
答えは実にシンプル。大人が言っているからだ。いじめは子供世界だけのお話ではない。
いつの時代も、子供の世界は大人社会の縮図だ。
子供は大人が考える以上に、大人たちの言動を観察し、まねる。
母親が「先生の悪口」ばかり言う家庭の子どもは、先生をバカにする。母親が「○○さんの奥さんって、△△なのよ~」と愚痴り、それを聞いていた父親が「○○さんのところは、××だからな」とバカにするやりとりを見ていた子供は、両親と同じように○○君をバカにする。
なぜ子供たちが感染を秘密にしたいのか
大人たちは子供のいじめが発覚する度に、学校や先生の対応ばかりを批判するけど、学校にいる大人も、家庭にいる大人も、テレビの中の大人も、みんなみんな子供たちの“お手本”なのだ。
件の調査で明かされた子供たちの「声」からも、子供は大人が考える以上に、「大人たちの言動」に敏感なことが分かるであろう。ちょっとでも具合が悪いと、「コロナだ!」と騒ぎ立てられ、親が医療従事者というだけで、いじめの対象になる。そういった言動は「見ている」傍観者の子供たちにもストレスになる。
これが大人たちが繰り広げる誹謗中傷の末路だ。
専門家は必ず言う、「子供の不安に寄り添ってください」と。
テレビのコメンテーターたちは必ず言う、「いじめは許されない」と。
全くその通りだし、そういった見解に異論は1ミリもない。
でも、その前に「私」の言動をもっと見つめ直してほしい。なぜ、子供の32%が「コロナに感染したら秘密にしたい」と回答したのか? なぜ、秘密にしなければいけないのか?
繰り返すが、コロナ感染を恐れることと他人を攻撃することは全く別。「自分は正しいことをやっている」って? そんなもんは“正義”の名を借りた刃(やいば)でしかない。これ以上、子供のいじめに加担しないでほしい。
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・「自己責任」論の広がりと置き去りにされる社会的弱者……
・この10年間の社会の矛盾は、どこから生まれているのか?
そしてコロナ後に起こるであろう大きな社会変化とは?
未読のかたは、ぜひ、お手に取ってみてください。
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