そもそも「ゾンビ企業」とは何か? 

 言葉自体は1990年代後半から世界的に広まったもので、「借金を抱え、再生の見込みがないのに銀行や政府の支援で生きな永らえている企業」を指すものだが、明確な定義があるものではない。
 加えて、かつて「ゾンビ企業」と呼ばれた企業でも、破綻や上場廃止に追い込まれた企業はごくわずかで、存続した「ゾンビ企業」の多くは業績を大きく改善させているとの報告もある。
 そもそも「ゾンビ企業」を識別するためのデータ入手の困難さから、「ゾンビ企業」と誤って識別されてしまったり、本来であれば「潰してはならない企業」まで、十分な支援が受けられず潰れてしまったりしている可能性があるとされている。

 ところが、「ゾンビ企業」という言葉の面白さからなのか、言葉だけが独り歩きした。「雇用調整助成金などの金融支援策が中小企業のゾンビ比率を高めている」といった具合に、雇用調整助成金の制度批判に使われている。

中小企業の保護を巡る“短絡的な”議論

 特に、今回のコロナ禍では、かなり飛躍した“ゾンビ企業論”が蔓延(はびこ)っている。「中小企業は非正規率が高いから雇用は守られない」「生産性の低い中小を救うことはイノベーションの妨げになる」「ポストコロナを見据えれば、雇用維持より雇用の流動化」という意見が声高に叫ばれ、揚げ句の果てに「中小企業を保護することはゾンビ企業の延命につながる」という、“暴論”に発展しているのだ。

 もちろん「働く人を守る=雇用調整助成金」ではない。働く人たちを直接支援する「特別定額給付金」や、失業手当では生活できない退職した人たちを支えるなど、「働く人」のセーフティーネットを充実させ、今までのやり方を見直す必要はある。

 だが、「企業を守ること」で雇用が守られることはあるし、「雇用調整助成金の制度=ゾンビ企業の延命に手を貸している」だの、「産業構造の転換を遅らせている」というのは少々短絡的だ。
 かつてはゾンビ企業は暗黙裏に「大企業」に対して使われていたのに、いつのまにか「ゾンビ企業=中小企業」「中小企業=生産性が低い」という文脈で語る人が増えてしまったことへの違和感も、めちゃくちゃある。

 私はこれまで全国津々浦々1000社以上の企業を訪問し、たくさんの中小企業の社長さんにお会いしたけど、どの社長さんにも「経営者の意地」があった。
 ある社長さんは「うちはパートさんが支えてくれている会社です。昇級も昇進もあります」と豪語し、「外国人労働者には日本人以上の賃金を払って当たり前。異国での生活には不自由があるだろうから、その分多めに払わないとダメですよ」と断言する社長さんもいた。最近は、「残業時間の削減や休暇の取得もきちんとできるホワイト企業じゃないと、学生さんに来てもらえない」と、悪しき伝統を変えようと努力する社長さも増えた。

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